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「天才少女」と呼ばれたアリサ・リュウの“劇的復活”…16歳でフィギュア引退後、コーチにかかってきた1本の電話「今のアリサは偽りない彼女自身」
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田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2025/04/04 11:03

2年半のブランクを経て、世界選手権で劇的な優勝を果たしたアリサ・リュウ(米国)
だがパンデミックのロックダウンと思春期が重なってしまい、2020年秋には体形も容貌も別人のように大人っぽくなっていた。急激に体形が変わった代償として4ルッツを失い、3アクセルも苦戦するようになった。2021年のNHK杯で4位に終わった直後、父のリュウ氏は当時のコーチ陣を解雇し、娘をコロラドスプリングスへと送った。5人きょうだいの長女で、妹や弟たちととても仲が良いというリュウにとって、家族と離れることは苦痛だったと後に告白している。
この年リュウはネガティブなコメントに疲れてSNSを見ることをやめた、と宣言。「他の人の言うことなど聞いてはダメ」というのは、この当時よほど嫌な思いをしたのだろう。
16歳で“電撃引退”をした真相
それでも2022年には北京オリンピックの代表に選ばれて6位、モンペリエ世界選手権で銅メダルを手にした。その2週間後、リュウはSNSで「スケートでやりたい目的は全て達成しました」と電撃的な引退宣言をした。
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「スケートばかりの日々に疲れていました。学校の前に、自分らしい生活をしてみたかった。だって大学で家を出ると、家族や幼馴染に囲まれた暮らしが終わってしまうでしょう。私はそもそもそんな経験がほとんどなかったので、家族や友人とゆっくり過ごす時間が欲しかったんです」と当時のことを振り返る。
コーチのもとにかかってきた“1本の電話”
リュウはこの2年、スケートを見ることすらしなかったという。UCLAで心理学を学び、スターバックスでアルバイトをし、友人の家族と一緒にヒマラヤ登山にも挑戦した。そんな彼女が復帰する気になったのは、なぜだったのか。リュウのコーチの一人、振付師でもあるマッシモ・スカリは独占取材に応えてこう語った。
「アリサはある週末、友人と一緒に初めてスキーに挑戦したんです。それで久しぶりにスピードを体験してアドレナリンが出て、スケートをもう一度やってみようか、と思い立ったそうです」
復帰を決意したリュウは、4年前に父に解雇されたスカリとフィリップ・ディグリエルモに自分で直接電話で依頼をしたという。
「最初に彼女が復帰したいと相談してきたとき、それは難しいんじゃないの、と言ったんです。でも彼女は絶対にやりたい、と言う。それで僕たちは、『わかった、一歩一歩一緒にやっていこう、僕たちがサポートするよ』と言ったんです」