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「そんな数字で僕を表現しないでください…」巨人の最先端トレーニング施設“G-BASE”のデータ分析担当者が明かす選手育成の秘訣「差を生むのは人」
posted2025/03/28 10:00

育成強化部DAチームを牽引する古川祐樹チーフ。07年のドラフト3巡目で巨人に入団したが、一軍では結果を残せず、12年限りで現役引退した
text by

生島洋介Yosuke Ikushima
photograph by
Hideki Sugiyama
昨季4年ぶり48度目のリーグ優勝を達成し、創設90周年を飾ったジャイアンツ。この節目のシーズンに向けて、ファーム改革にも着手していた。トレーニング棟“G-BASE”を備えた新ジャイアンツ寮を整備、さらに育成強化部を新設したのだ。
“G-BASE”は最新のスポーツ医科学を活用してファーム選手の強化を図る施設で、特に注目すべきが動作解析室(通称ラボ)だ。育成強化部DA(データ分析)チームの古川祐樹チーフに、巨人が誇るラボの優位性とデータ分析の現場について聞いた。
「複数のデータを同時に取れて、なおかつすぐにフィードバックできるところが最大の特長です。外部の研究施設に行けば骨格データなども取れますが、分析結果を得るにはどうしても時間がかかってしまう。選手は一日一日が勝負ですから」
ラボにある主な機材は、球質のデータを取る「トラックマン」、リリースやインパクトの映像を捉える「ハイスピードカメラ」、そして床反力を計測する「フォースプレート」と骨格の動きをデータ化する「モーションキャプチャー」。総額約1億5000万円の最先端機器を使ってピッチングやバッティングを詳しく分析することで、選手それぞれの改善点を把握できる。
データ分析を活かすのは血の通った言葉
例えばピッチングの場合、ボールの回転数や回転軸などをトラックマンで明らかにしつつ、なぜそうなったのかを骨格の動きやリリース映像などから見ることができる。バッティングについても、結果としての打球の質と、要因としてのスイングスピードや軌道、骨格の動き、床反力などを紐づけて確認することが可能だ。幅広いレベルの選手たちの課題が、土台となるフィジカルにあるのか、技術やその生かし方にあるのか。一軍で活躍するために足りない部分が可視化される。
ファームの選手たちは、課題や取り組みを共有しているコーチとともに動作解析室を利用し、アナリストの分析を基に速やかなフィードバックを得る。ラボの稼働により、巨人のデータテクノロジーの活用度は日本球界で突出したレベルになった。
ただし、最新の機材を揃えればデータ分析で強化が進む、というわけではないようだ。
「いくらいい設備を持っていても、最終的な差を生むのは人だと考えています。10伝えても2しか理解できなければそれまで。さまざまな分析結果を咀嚼して伝える能力や、解釈する選手のスキル、両者の信頼関係が重要ですね」
古川チーフがこう言い切るのは、ジャイアンツがトラックマンによるデータ分析を導入した8年前を知っているから。当時はまだ、データを取り入れることに抵抗感を持つ選手が少なくなかった。