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「そんな数字で僕を表現しないでください…」巨人の最先端トレーニング施設“G-BASE”のデータ分析担当者が明かす選手育成の秘訣「差を生むのは人」
text by

生島洋介Yosuke Ikushima
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/03/28 10:00

育成強化部DAチームを牽引する古川祐樹チーフ。07年のドラフト3巡目で巨人に入団したが、一軍では結果を残せず、12年限りで現役引退した
「感覚でやっていたものに数値が出るというのは、君はこうだって決めつけられるような感じなんです。僕も元々は投手としてジャイアンツに入ったので、その気持ちがよくわかる。そんな数字で僕を表現しないでくださいって」
そこで古川チーフは選手に寄り添いながら、試合での結果とパフォーマンスのデータをしっかり結びつけることに注力したという。良いときはこう、悪いときはこうだという傾向が見えてくると、選手もデータ分析の有用性を実感できる。そうして選手の抵抗感を取り除いてきた。それでもデータに興味のない選手を相手にする場合、裏付けとなるデータは確認しながら、本人には観察で気付いた傾向だけを伝えることもあるそうだ。
「日頃から選手をよく見ることが大事です。やっぱり、数字だけみて選手に突きつけても、血が通っていないというか、なんか無責任じゃないですか。今日はこういう感じで投げているんだなと、フォームはもちろんですが表情なども観察します。そうして選手に合ったタイミングで必要な情報を落とし込むのが、サポートする上で大事かなと。僕もそうでしたが、ちょっとした変化に気付いてくれると、選手はすごくうれしい。データを扱っていても、最終的には対“人”なんです」
ファーム強化の秘策
一軍のデータ分析を8年間担った古川チーフは、一軍選手たちに惜しまれつつ今年からファームの育成強化部に異動した。サポートする選手は大きく変わるが、最新の機材とアナリストやスコアラーが練り上げた情報を選手やコーチに伝える役割は変わらない。
「ファームにはいろんなレベルの選手がいるので、それに合わせる必要があります。育成選手や高卒の子は、まだまだこれから基礎を上げていかないとならない。育成強化部にはフィジカルを担当する強化チームがあるので、彼らと連携して肉体的なベースアップを図ります。それがある程度できているなら、もっと技術を上げていくのか、持っているものを生かす方法を学ぶべきなのか技術コーチと相談します。一軍と二軍を行ったり来たりする選手はまた別なので、レベルによってアプローチの仕方を変えていきます」
さらに選手のパーソナリティに合った方法を探るため、古川チーフはある策を取り入れるそうだ。
「今年から月に数回、選手寮の宿直もやる予定です。接点がなかった選手がほとんどなので、寮に入ってしっかりコミュニケーションを取った方が早いかなと。グラウンドとはまた違った顔を知ることで、なにか気付くこともあると思います」
古川チーフを中心とするG-BASEの育成強化部DAチームは、今季から野手としてプロ経験を持つメンバーを初めて迎え、人材の拡充を図った。施設も組織も刷新されたファームから、次代を担う選手を育成していく。最新のデータ分析と選手への丁寧なアプローチが、ジャイアンツの強化に大きく貢献するだろう。

