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猛牛のささやきBACK NUMBER
「あ、もう終わった…」オリックス・比嘉幹貴の野球人生を変えた12年前の「悪夢の開幕戦」2日連続サヨナラ負けから切り拓いた“火消し職人”の道
text by

米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byNaoya Sanuki
posted2025/03/26 11:03

ピンチのマウンドを何度も救った「火消し職人」の比嘉
古田島にかけた言葉
後輩からは“比嘉さんの言葉”が自然とこぼれてくる。昨季ドジャースに移籍した山本由伸は以前、「いい時こそ謙虚に、悪い時こそ明るく」という比嘉の言葉を胸に刻んでいると話していた。
昨年はルーキーだった古田島成龍が、比嘉から「毎日が都市対抗のつもりで」とアドバイスされ、初登板から22試合無失点というプロ野球記録に並び、50試合登板、防御率0.79という成績を残した。
だが比嘉は恐縮する。
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「なんかちょいちょい言われるんですけど、そんな格言めいたものじゃないんです(苦笑)。普通にブルペンで会話する中で言っているだけ。去年も古田島から話を聞いた記者の人に『どういう意味で言われたんですか?』とか聞かれたんですけど、そんな意味なんてなく、ノリで言っただけで(笑)。
お客さんがいっぱいで、『緊張する』と言っていたから、『なんだよ、やるしかないんだよ!』って。社会人野球を経験している人はみんな、都市対抗や予選では腹くくって行ってるから。『プロ野球は毎日そんな感じだよ。1個1個が』と言っただけです。本当に普通の会話の中のことで、そんな『おい聞け!』みたいな感じでは喋ってないです(笑)」
「やめとけって言ったんですけど」
その古田島は今年、比嘉の背番号35番を受け継いだ。比嘉のもとには古田島から直接連絡があったという。
「やめとけって言ったんですけど(苦笑)。昨年すごくいい成績だったんで、その流れを自ら変える必要はないんじゃないかなと思ったし、きっといろんな人からそう言われたと思うので、『いいの?』って。でも『35がいいんです』みたいに言ってくれたので、『だったら嬉しいよ。どうぞ』って」
投手コーチ1年目の今年はブルペンを担当する。引き続きブルペンに比嘉がいることは、投手陣にとって心強い。これからも何気ない一言が、選手を覚醒に導くことだろう。(前編からつづく)
