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「平本蓮、朝倉未来は“エンタメ枠”」RIZIN王者クレベルの本音…血染めの“年またぎ決戦”はなぜ観客を惹きつけたのか?「本物のベルトはここにある」
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2025/01/06 17:07
マウントポジションから鈴木千裕にパウンドを落とすクレベル・コイケ。年またぎの大熱戦を制してRIZINフェザー級王者に返り咲いた
鈴木千裕もクレベルも…両者が見せた“進化”
結局、その5カ月後に鈴木はチャンピオンベルトを巻くことになるが、鈴木との一戦を前にフェザー級王座を剥奪されたクレベルにとっても大きな転機となった。丸腰になって初めて、王座の価値が身に染みてわかったのだろう。昨年初頭にはUFCやBellatorを吸収合併したPFLからのオファーを断り、RIZINフェザー級王座だけに照準を定めた。
以前のクレベルはRIZINとの交渉に代理人を立て、試合成立までがスムーズにいかないこともあったため、多かれ少なかれトラブルメーカーのイメージがあった。もちろん少しでも自分を高く売ろうとする姿勢はプロとして必要不可欠ながら、度が過ぎると主催者側に不信感を芽生えさせるだけだ。
考え方を変えた理由は何だったのか。
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「2024年は自分のジムを作り、家も引っ越した。息子も生まれた。最後にチャンピオンになることで、今年の最後を締めくくりたかった。だから僕は神様と約束したんです。やれることは全部やり切って、絶対にチャンピオンに返り咲く、と」
調整でも「やり切る」ことを目標に、朝倉海を破ったUFCフライ級王者アレッシャンドリ・パントージャや堀口恭司が所属するアメリカントップチームに出稽古に赴いた。
「自分はトライアングル(三角絞め)だけと思われがちですけど、グラウンドコントロールが非常に進化したと思う」
案の定、勝負の分かれ目となったのは、クレベルが力を注いだグラウンドコントロールだった。2ラウンド以降は鈴木をグラウンドの蟻地獄へと引きずり込み、フィニッシュのチャンスを待つ。
鈴木は3ラウンドの「クレベルの三角絞めを外して、マウントをとられたところが勝負の分岐点になった」と分析する。
「(クレベルを出血させた)ヒジを当てて僕に流れがきたけど、そこから一気に流れが変わった気がします」
スコアは3-0。誰の目から見ても鈴木の勝ちはない内容だったが、初対決と比べると大きな進歩の痕が見られた。極め技を仕掛けられても、鈴木はそのたびにエスケープしていたのだ。札幌での初対決時には寝技で全くいいところがなかっただけに、この1年半で大きな成長を遂げたことになる。鈴木は「ガッツリとは入っていなかったので、抑えることができた。そのへんは練習でもやっていたので想定内でしたね」と振り返る。
しかし、その先で試合を優勢に進めることはできなかった。「三角絞めがダメなら、マウントからのパウンドで」と言わんばかりに次から次へと仕掛けてきたクレベルの猛攻を凌ぐことはできたものの、試合の流れそのものを引っくり返すまでには至らなかったのだ。その要因こそ、鈴木の想像を超えるクレベルのグラウンドコントロールの進化だったのではないか。