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「なんで、ひと言もないんだ!」立浪和義の怒声…落合博満はなぜ中日の“聖域”にメスを入れたのか?「これは俺にしかできない。他の監督にはできない」―2024下半期読まれた記事
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byJIJI PRESS
posted2024/12/23 11:00
キャンプ練習中に打撃のそぶりみせる中日・落合博満監督と、それを見守る立浪和義
「これはお前に喋ったことだ。誰か他の記者に伝えるような真似はするなよ。お前がひとりで聞いたことだ」
遠ざかっていく落合の背中を見つめながら、私の頭にはひとつのフレーズが妙に残っていた。
お前、ひとりか?
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ナゴヤドームのベンチ脇には一本の薄暗い通路がある。球場スタッフや報道関係者が行き来する1階のコンコースと、ナイター照明に光るグラウンドを結ぶ、いわば日常と非日常をつなぐトンネルである。
私はゲーム直前になると、よくその通路に立っていた。プレーボール間際、選手がそこへ顔を出すことがあるからだ。ロッカーの外の空気を吸いたくなるのだろう。緊張感を和らげるように談笑する者がいれば、独り黙している者もいる......。彼らの様子を見ていると、これから戦いにいく男たちの心の揺れを感じられるような気がするのだった。
用具室に響いた立浪の怒声
2006年の中日は開幕から好位置につけ、6月からは首位に立っていた。順調な戦いを続けるなかで、チームが大きく揺れたのは7月2日広島戦のことだった。
私がいつものように、トンネルのようなドーム内の通路にいると、突然どこからか怒声が響いてきた。
「なんで、ひと言もないんだ!」
私は思わず周りを見渡した。声はどうやら、練習用のボール等を保管しておく用具室のほうから聞こえてきたようだった。中をうかがうことはできなかったが、抑えの利いたバリトンには聞き覚えがあった。立浪和義の声だ。
次の瞬間、何かが激突するような音がした。それとともに、周りにいる誰かがなだめているような気配も伝わってきた。
「タツさん、気持ちはわかるよ......。でも堪えなきゃ......」
いつもは感情を露わにしない立浪が荒れているのだろうか。
私には壁の向こうで何が起こっているのか、想像することができた。
プレーボールまであと1時間。ベンチ裏ではミーティングが終わり、すでにこの日の先発メンバーが発表されたはずだ。そして、おそらく、そこには立浪の名がなかったのだーー。
<続く>