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大西将太郎と土井レミイ杏利が能登で泥まみれになって気付いた、被災地でアスリートは何ができるのか
posted2024/12/20 11:30
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph by
Hideki Sugiyama
車窓から見えるおびただしい数の流木に胸を衝かれる。集落にさしかかると、横倒しになったままの建物が次々と現れる。海岸線には海底の隆起によってむき出しになったテトラポットの大群。震度7の恐怖、水害の脅威におののく。
アスリートの社会貢献活動を推進する「日本財団HEROs(ヒーローズ)」で「災害支援チーム」の一員である大西将太郎さん(ラグビー元日本代表)と土井レミイ杏利さん(ハンドボール元日本代表主将)が11月に向かったのは石川県輪島市。2人とも水害後の10月に続いての参加だ。
「あそこも、ここも、1カ月前から景色が全然変わっていません」大西さんが倒壊したままの建物を指さして言う。
「重機が入れない所も多いので、水害は圧倒的にマンパワーが必要なんです。でも支援の人数が足りていません」
土井さんも窓の外をじっと見つめている。
大量の土砂や流木が流れ込んでしまった民家へ
一行は金沢市の宿を早朝に出て午前中に輪島市内の中学校で「子ども支援」を行なった後、さらに1時間ほど市内を車で移動した。道路には通行止めの箇所があるため最短ルートは使えない。東京駅から金沢駅までの約400キロは新幹線で約2時間半だが、金沢から輪島までは約100キロで3時間近くかかる。
金沢市内のコンビニで買っておいた軽食を移動中に食べながら、ようやく現地に到着。すると、大西さんと土井さんの表情にキリッとスイッチが入った。手早くゴム長靴を履き、マスクとゴーグル、手袋を装着。あっという間に準備を整えた。
2人が配置されたのは、2024年1月の地震で家屋が半壊し、雨漏りする屋根にブルーシートをかけてしのぎながら修理の順番待ちをしていた9月、今度は水害に遭い、大量の土砂や流木が屋内や床下に流れ込んでしまった民家。この日の作業は床下に流れ込んだ泥を掻き出して一輪車で運び出すことだ。
とはいえ、床下の隙間はそもそも天地が50センチほどしかないうえに、真っ黒な泥で奥は何も見えない。大西さんや土井さんのような大柄な男性アスリートが潜るのはかなり難しそうだ。しかし、そこは適材適所。小柄な女子選手が潜る役目を買って出るのが、さまざまな競技のアスリートが名を連ねるHEROsならではのパワーなのだと大西さんが言う。