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大西将太郎と土井レミイ杏利が能登で泥まみれになって気付いた、被災地でアスリートは何ができるのか
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/12/20 11:30
土井レミイ杏利さん(左)と大西将太郎さん(右)
「もっと大変な人がいるから…」という心理
「2007年の地震ではニュースで扱われたのが輪島市内の別の地域だったので、ボランティアさんが来ることもなくて、この辺りは置き去りでした。お寺の本堂だけは門徒さんに頼んで片付けてもらいましたが、今回は門徒さんも減っていて……。ですから、ボランティアの方々がこんなに来てくれて本当に助かっています。でも、来てほしいけど来てもらえないという家がいっぱいあると思います。自分からお願いするのはなかなかできないものなので……」
被災者には「自分よりもっと大変な人がいるから頼みにくい」という繊細な心理があるのだという。そこをどう変えられるか。土井さんは「気持ちの部分に寄り添うことが何より大事」と言葉に力を込める。
「能登で支援活動をやって感じるのは、みんな、心をやられているということです。1月に大地震があって家を失い、気力を振り絞って立ち上がろうとしていたところで9月に水害に遭って、また甚大な被害を受けました。それでも被災者の方々は優しいんです。『自分は半壊で済んだから幸せなほうだよ』と言って、途方もない作業を自分でやろうとするんです。それが一人暮らしのおじいちゃんだったりもします。だからどんどん孤独になっていきます。ボランティアはロボットのようにただ作業をするのではなく、心のケアをしながら作業をすることが重要です」
土井「最初はどこから手を付ければいいんだよ、と」
日没が迫り、この日の作業は終了。不思議だったのは、泥だらけになった作業着と長靴を水で洗っている土井さんが作業前より元気になっているように見えたことだった。
「最初はどこから手を付ければいいんだよ、というくらいの泥でしたが、やっているとやりがいを感じるようになっていきましたね。今日はこれで終わりですが、本当は最後までやりたいくらい。明日の人に引き継ぐのが悔しいくらいです」
土井さんの声は生き生きとしていた。
大西さんはこれからの活動にも思いを馳せる。
「今後も気候変動の影響で災害が起きる可能性は高いので、困った人たちがいるところに気を配って、できることをやっていきたいですね。でも一人では何もできません。アスリートの繋がりも大切にしながら、誰かのために何かをできればいいんじゃないかと思っています」
重い泥を乗せた一輪車を悪路で黙々と押し続けた後の2人の表情には、疲労感を上回る充実感が浮かんでいた。泥まみれのヒーローがそこにいた。
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