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大西将太郎と土井レミイ杏利が能登で泥まみれになって気付いた、被災地でアスリートは何ができるのか
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/12/20 11:30
土井レミイ杏利さん(左)と大西将太郎さん(右)
トップアスリートの姿に学生が触発され
「アーティスティックスイミングの女子選手は柔軟性を活かして巧みに前進しながら、泥をどんどん掻き出していきます。その代わり『重いものを運ぶのは大西さんに任せますね!』って(笑)。『任せとけ!』ですよね。泥は重いから腰に負担が掛かるのですが、ホッケーの選手は前屈みの姿勢に強いようで、女子選手でも長時間連続で一輪車を押しているのがすごいなと思いました。それと、個人競技の選手は没入するのが得意そう。膨大な泥の中から大事な品を探し出すという繊細な作業を一心不乱にやっていました」
それぞれの特性を活かして作業する様子を、大西さんはどこか得意げに説明する。
今回、現地には頼もしい助っ人がいた。石川県内の高校で体育会系の部活動をやっている生徒たちが、顧問の先生とともにボランティア活動に加わっていた。この日はソフトボール部だったが、日によってサッカー部だったり、バスケットボール部だったり、部活も学校もさまざま。高校生だけでなく大学生や専門学校生も部活動単位で参加しているのだという。
共通しているのは、トップアスリートが自ら足を運んで災害ボランティアに従事する姿に、高校生・大学生らが触発されているということ。時にはアスリート1人の参加で100人ものボランティアが集まることもある。これがアスリートの力だ。
土井さんは実感を込めてこう話す。
「アスリートが動くと、そのスポーツに携わる人たちが『自分も、自分も』と集まってきます。前回はサッカー部の生徒が大勢いました。アスリートが持つ、人を集める力は、特に災害支援のようなマンパワーが必要な場面で活きています」
大西「行った人が偉いというのではなく…」
能登支援に参加したことをSNSに上げたら、各方面から多くのリアクションがあったというのは大西さんだ。
「自分も参加したいと連絡をくれたアスリートもいましたし、知り合いのパン屋さんが『能登にパンを送りたい』と連絡をくれました。食べ物を送るのはハードルが高いのでまだ実現していませんが、一つの行動を発信することが新たに行動したいと思う人を生み出しているという実感がありましたね。行った人が偉いというのではなく、自分には何ができるのかと考えるきっかけを作り出すこともHEROsの活動の意義だと思います」
被災者は支援を受けることをどのように感じているのだろうか。話を聞かせてもらった方の家は、地元に代々伝わるお寺。2007年の能登半島地震の時も大きな被害があったが、ボランティア団体の支援を受けるのは今回が初めてだという。