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“先輩と妻”に救われたFW「やっていける気せんわ…」「日本、帰んなよ!」ドイツで町野修斗が愛されるまで「自分の知っているドイツ語を」
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byJurgen Fromme-firo sportphoto/Getty Images
posted2024/11/08 11:05
ドイツ移籍当初は苦しんでいた町野修斗の海外生活、支えたのは先輩と妻だった
「当時は、妻が唯一、日本語で直接話をできる存在でしたし、オフには色々なところへ出かけたり、一緒に気分転換をしてくれたのは大きかったです。まぁ、そばにいてくれただけで大きかったんですけどね」
妻だって初めての海外生活で大変だったはずだ。それなのに、“仕事”で壁にぶつかっている自分を支えてくれた。
「そもそも、こうした環境についてきてくれるのは簡単なことではないので。本当に感謝しています」
先輩の言葉や自分以上に強さを見せる妻の存在もあり、町野も少しずつ態度を変えていった。心を閉ざすのではなく、自ら心を開いていく。そう心がけることで、少しずつ練習場での日々も変わっていった。いつしか、練習後にチームメイトとともにサウナへ入るという日課も生まれた。
“もう1人の日本人”が加入して伝わった町野の個性
さらに明るい兆しが訪れたのは2024年1月、シーズンの後半戦に入るタイミングからだった。
トップチームの分析スタッフとして、佐藤孝大が加入したことだ。筑波大出身の佐藤は、日本の年代別代表やA代表の分析スタッフとして働いており、町野もA代表でともに戦った経験があった。
キールのマルセル・ラップ監督は、今シーズンのブンデスリーガでもわずか1勝しかしていないのに、ビルト紙による週間ベストイレブンと並ぶベスト監督に2度も選ばれている戦術家だ。そのため、攻撃での決まり事やルールが細かい。実際、必要に応じて、佐藤が日本語で戦術面の細かいフォローアップをしてくれたのも大きな後押しとなった。
それだけではなかった。
佐藤が分析スタッフらしく、丁寧に仕事をしていくタイプだったことが、幸いしたのだ。
「うちにはもともと、分析専属のスタッフが1人しかいなかったのでチームの戦力としてもプラスでした。ただ、タカさん(佐藤)は人間的に非常に素晴らしい方で、みんなに好かれているんです。そして、タカさんがチームに溶け込んでいくにつれて、みんなが僕とタカさんとを比べるようになって。タカさんはみんなにとって『ザ・日本人』という感じだったようですが……」
「オマエは本当に日本で育ったのか? 違うだろ!」
それに引き換え、豪快なストライカーながら、おっとりしたところもある町野には、みんなから笑顔でツッコミが入るようになった。