ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
“12年の片思い”堤聖也はなぜ井上拓真を攻略できたのか? トレーナーが伝えた「(穴口が)上から見ているぞ!」直後に奪ったダウン…激闘のウラ側
posted2024/10/16 18:06
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
10月13日、14日の両日にわたって東京・有明アリーナで開催されたAmazonの『Prime Video Boxing 10』2DAYSイベントは、7つの世界タイトルマッチに加えて那須川天心のボクシング第5戦が行われ、圧巻のKO防衛あり、激闘あり、世界初戴冠劇ありと充実の内容で幕を閉じた。
中でもDAY1のメインイベント、WBA世界バンタム級タイトルマッチは、挑戦者の堤聖也(角海老宝石)が下馬評を覆して王者の井上拓真(大橋)からベルトを奪う快挙を達成。堤はなぜ“格上”とされた拓真を攻略できたのか。堤の参謀、石原雄太トレーナーの言葉を軸に試合を振り返りたい。
「やり方をミスったらフルマーク(負け)もあり得る」
試合後の記者会見、堤は喜びを爆発させるふうでもなく、一つひとつ言葉を選びながら、メディアのインタビューに答えた。大切な思いを正確に言葉にしたい。そんな気持ちが伝わってくるような語り口だった。
ADVERTISEMENT
「拓真に勝ったというのは本当にうれしいです。拓真がいなかったら僕はプロボクシングに来てないと思うし、高校生のときからずっとリベンジしたいって考えていて。拓真からしたらインターハイで1回試合をした同い年のやつとしか思ってないと思う。12年間、僕が片思いして追いかけてきた。そして今日、追い抜くことができました。最高ですね」
ボクシング界では「花の95年組」という言葉がある。その先頭を走り続けてきたのが3階級制覇王者の田中恒成(畑中)であり、井上尚弥の弟でもある拓真だった。チャレンジャーの堤も同じ95年生まれ。高校時代から何度も全国優勝してきた両者に対し、堤が日本一になったことは一度もない。拓真に敗れたのは高校2年生のインターハイ準決勝だった。
こうして12年越しに雪辱のチャンスを手にしたものの、拓真を攻略するのはだれ一人解けない難解なパズルにチャレンジするようなものだった。堤本人でさえ、戦前は「やり方をミスったらフルマーク(負け)もあり得る」と自らの完敗まで口にしたほどだ。この難問をいかにして解くのか。堤と長年コンビを組む石原トレーナーは次のように語った。