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「井上尚弥に破壊された?」あのフルトンが復帰戦であわやKO負け…フェザー級は魔境なのか「トレーナーに聞く“井上ショック”の後遺症」 

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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photograph byL:Naoki Fukuda

posted2024/09/17 11:02

「井上尚弥に破壊された?」あのフルトンが復帰戦であわやKO負け…フェザー級は魔境なのか「トレーナーに聞く“井上ショック”の後遺症」<Number Web> photograph by L:Naoki Fukuda

井上尚弥との一戦(左)以来となる復帰戦で勝利したスティーブン・フルトン。試合後、前チーフトレーナーのワヒード・ラヒーム氏に話を聞いた(筆者撮影)

 生身の人間を語るのに“壊された”、“壊れた”といった表現を使うことを個人的に好まないが、その意図自体は理解できる。一定の耐久力を示していたボクサーが、KO負けを境に脆さを感じさせるようになるのはボクシングではあること。しかも相手は“モンスター”である。昨夏、井上戦で強烈な2度のダウンを奪われ、完敗を喫したダメージをフルトンが引きずっていたとしても驚くべきではないのかもしれない。

 もちろんその疑問の答えがクリアなわけではない。冒頭で記した質問をぶつけた際、一瞬のためらいの後、ラヒームは“井上ショック”の影響をはっきりと否定した。

「そうは思わない。彼がダメージを受けたのはあれが初めてじゃない。もともとスティーブンは強靭なアゴを持っている選手ではないんだ。だからこそ、私は危機を回避できるスタイルを教え込んだ。今回の試合では新しいスタイルを試していて、そこにカストロという好選手のパンチを浴びたということだ」

「今は新しいスタイルを学んでいるところ」

 フルトンが15歳だった時に知り合ったというラヒームは、キャリアを通じて最も近くで成長を見守ってきた人物である。通称“クールボーイ・ステフ”を「家族のようなものだ」と語るトレーナーの証言には一定の説得力がある。それと同時に、ラヒームは井上戦後のフルトンと自身の“変化”も説明してくれた。

「今のスティーブンは新しいスタイルを学んでいるところだ。トレーナーが私からボージー・エニスに代わり、よりアグレッシブな戦い方を身につけている。今の戦いに完全に適応するにはもう少し時間が必要なのだろう」

 井上戦で完敗を喫したあと、ラヒームはチーフトレーナーから外れ、同じフィラデルフィア出身のIBF世界ウェルター級王者ジャロン・エニスの父でもあるボージーが後を引き継いだ。ラヒームは今戦でもセコンドには入ったが、戦術の組み立てはエニスが行なっている。だとすれば、ジャブの差し合いで遅れをとったカストロ戦でのフルトンが中間距離での打ち合いを望んでいたように見えたことにも合点がいく。

【次ページ】 フルトンが見据えるフェザー級での挑戦

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