甲子園の風BACK NUMBER
号泣は取材時も止まらず「先輩に…申し訳ない」“打てば逆転サヨナラ甲子園優勝”で三振「初球からいけ」関東一2年バッターの後悔と誓いとは
text by
間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/08/24 17:00
ゲームセット後、アルプススタンドへの挨拶で涙にくれる関東一の坂本慎太郎。甲子園準優勝した2年の夏を経て、どんな野球人となるか
「きょうはチェンジアップが全然ハマっていなかったので、真っ直ぐとスライダーに切り替えました。最後の打者は真っすぐを待っているかもしれないと思いましたが、西村のコントロールと球威を信じました。そこで弱気にならなかった気持ちの部分で相手に勝ったのだと考えています」
奥井は心だけではなく、頭を使った配球も光った。関東一の左打者が今までの試合と違ってファーストストライクからスイングすると察し、序盤はボール球を振らせたり、バットの芯を外したりする組み立てを心掛けた。右打者は逆方向を狙っていると感じ取ると、内角の直球を効果的に使った。
関東一の主将で4番の高橋徹平選手も相手バッテリーの攻めに脱帽した。第1打席は6球中、5球が変化球でライトフライ。続く打席は4球連続で外角直球の後、内角への直球で空振り三振を喫した。
「配球が読みづらく、相手が一枚上でした。チームとしても最後の最後まで相手バッテリーにやられました。10回の攻防でも相手との差を感じました」
バントシフトを敷いてのバスターにも感じた差
無死一、二塁から始まる10回表の守備。関東一は一塁手と三塁手が猛チャージをかけるシフトを敷いた。三塁手の高橋は極端に前進し、投球と同時にダッシュ。バントした打球を素早く捕球し、三塁ベースに入る遊撃手へ送球して相手に進塁を許さない作戦だった。だが、カウント2ボール1ストライクと打者有利になった4球目にバスターを決められた。打球は前進した高橋の頭上を越えていく。
「バントで確実に送ってくると思っていたので、意表を突かれました。あのコースにきっちりと打てるのは、積み上げてきたものが大事な場面でも出たのだと思います。向こうの対応力の方が上でした。最後は打ったチームが勝つんだなと感じています」
関東一は決勝戦も無失策と、大会を通じて守備力の高さを見せつけた。攻撃では四死球や犠打、内野ゴロで走者を進め、少ない安打数で得点してきた。接戦を制してきた米沢監督は「得点する方法は安打だけではないと選手たちは理解しています。ただ、誰かが打たないと点数は入らないです」と口にしていた。決勝戦では、「誰か」が最後まで現れなかった。
初球からいけと言って送り出しましたが
米沢貴光監督は、前述した坂本の打席で初球にチャンスを見出していた。