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「一人だけムキムキです」173cmの長身でも…“モデル体型”脱却が進化のカギ? 走高跳・高橋渚(24歳)が語る「最古の日本記録」への挑み方
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph by(L)Yuki Suenaga、(R)Kiichi Matsumoto
posted2024/08/17 06:01
20年以上更新されていない女子走高跳の日本記録。現在の第一人者である高橋渚(センコー)は偉大な記録にどう挑んでいくのか
今季の高橋のフィジカルアップは傍から見ても感じられた。
自身が「一人だけムキムキですよね」と苦笑するように日本選手権ではほかの選手と比べ、明らかにガッチリとした体格に進化していた。
「いま学生時代の自分を見ると、『線が細いなぁ』と思います。しかも細いのになんというかポチャポチャとしている。いまは身体全体に筋力がついたので、走力そのものが上がっているのも実感しています。記録の伸びを見ても明らかに自分が向かっている方向は間違っていないので、自信をもってトレーニングができていると思います」
上がった「出力」をどう跳躍に活かすか
目下の課題はその上がった走力と筋力をジャンプに繋げることだ。
走高跳とは、実に繊細な種目である。
走力・筋力が上がれば理屈上では跳べる高さが上がるのは当然のはずだ。一方で、実際にはそれを跳躍に活かすための「まとめる」作業が必要になる。助走を跳躍に繋げ、そこから最後のバーのクリアランスに至るまで、一連の流れがスムーズに流れるようにしなければならない。
そこには本人の微妙な感覚や、タイミングの匙加減が存在する。出力が上がれば、当然その感覚には変化が生まれる。下手をすれば、上がった能力のせいでかえって記録を落とすことさえあるのだ。その意味で、出力を上げるというのは両刃の剣とも言える。
それでも世界との「壁」を越えるためには根本の出力を上げないわけにはいかない。
この日も高橋は炎天下で細かなステップや、助走の際の曲線的な走りに繋がる動きづくりを淡々と繰り返していた。
そこには何十本もの走り込みや、わかりやすい重量を上げるウエイトトレーニングのような派手さはない。ただ、だからこそかえって顕著に日本王者の凄みが感じられる気がした。