粛々と地味な、けれども必須のトレーニングを積み重ねること。世界大会に出場するような選手たちは、多かれ少なかれ、皆そんな日々を過ごしているのだろう。

　高橋本人は言う。

「私は不器用な方なので、去年まではコーチが言っていることが分かっても、なかなかそれを現実の身体の動きに落とし込むことができませんでした。でも、体の使い方の基礎やベースが上がったことで、言われたことがすぐに実行できるようになった。それはここ1年での成長に繋がっていると思います」

　昨季から今季にかけて、高橋は試合で1m80cm台の後半の記録を連発した。

　国内だけでなく慣れない海外での大会でも記録を残せたことは、身に着いた実力が本物であることの証左でもあった。

　それだけに、一見すればタイミングさえあえば1m90cm台の記録もすぐにでも出せるように思える。一方で、醍醐コーチは「焦りは禁物」と戒める。

「跳躍競技や投擲競技はたまたま調子やタイミングが合って一本パーンと記録が出てしまうこともあります。ただ、そうやって『出てしまった』記録はかえって本人を苦しめることにもなる。実力通りの再現性のある記録を積み上げていくことが本人にとっても大事なことだと思っています。その上で、いまでも1m90cmは十分跳べるとは思うので、あとは高いレベルでの大会の経験なども必要なのかもしれません」

日本記録は「簡単な記録じゃない。でも…」

　師弟の自信にあふれた表情を見ていると、記録が“大台”に乗る日は意外に早く来るのかもしれない。そしてその「壁」をひとたび越えさえすれば、その先の見通しもハッキリとしてくるのだろう。

　女子走高跳の日本記録は2001年に今井美希がマークした1m96cm。高橋本人は「簡単な記録じゃないですけど、もちろん頭の片隅には常にある」と言う。

　仮にこの記録を跳ぶことができたとしたら――パリ五輪では、銅メダルに相当する。

＜次回へつづく＞

#3に続く

五輪で乱立の「美人アスリート」報道…実際の選手はどう感じた？ 走高跳・高橋渚（24歳）が語る“知ってもらう重要性”「入り口は様々でも…」