オリンピックPRESSBACK NUMBER
「あと3cm」「あと1人」で五輪を“逃した”日本王者が思うこと…走高跳・高橋渚(24歳)が振り返るパリまでの日々「ラッキーで行ける舞台じゃない」
posted2024/08/17 06:00
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph by
Yuki Suenaga
あと、ほんの3cm。
わずか500円玉1枚分ほどの高さを越えられていたならば。この日、高橋渚(センコー)の姿は日本から遠く離れたフランスの地にあったはずだった。
ただ、スポーツの世界にタラレバはない。
8月初頭。35度のうだるような日本特有の暑さの中、神奈川県の陸上競技場のバックストレートで、何本もダッシュを繰り返す。地元の中学生たちも練習しているトラックで、走り込んでいる自分こそが現実だった。
――五輪、見ていますか?
「そうですね……ちょこちょことは」
熱戦がつづいていた五輪に関して尋ねると、高橋は少し間をおいて苦笑した。
「もちろん悔しさもありますし……なんて言うのかな。少なくとも今までとは違う見方になるのは間違いないと思います。海外転戦で一緒に戦った選手も多く出場しますし、これまで以上に自分に近しい舞台だと思って見ることになるのかなと」
日本選手権3連覇…でも五輪は決められず
6月に新潟で行われた日本選手権走高跳で、高橋は3連覇を達成した。1m87cmの優勝記録は2位以下に9cmの差をつける一人旅での圧勝劇だった。
一方で今回の日本選手権では、パリ五輪への世界ランキングでの出場もかかっていた。
獲得ポイントの関係で、今回の日本選手権で「1m90cmを跳んで優勝」できれば、出場圏内となる32位以内のランキングまで上がることができる計算だった。
結果的に高橋は、その大台を超えることができなかった。
「試合中はもう、何がなんでも跳びたい気持ちが強すぎて。それまでのチャレンジから現実的にも跳べるだろうとも思っていましたし。けど、やっぱ意気込みすぎというか……後から振り返ると、ちょっと余裕がなくなっていたなと」
今季、高橋の安定感は日本のトップジャンパーの中でも群を抜いていた。