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合言葉は“文武不岐”…「練習は毎日2時間」「グラウンドは他部活と共用」「宿舎では勉強」でも“偏差値66”栃木の公立進学校が甲子園で勝てたワケ
posted2024/08/14 17:01
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
JIJI PRESS
甲子園球場が完成して100年目の2024年に初出場を遂げた、創立100周年の進学校。
栃木の石橋が陣取る一塁側アルプススタンドがオレンジ一色に染まっていた。
「すごく背中を押されました」
宮城大会決勝で強豪・仙台育英を破った聖和学園との「初出場対決」で、先発マウンドに上がった背番号「6」の入江祥太が奮闘する。
中学時代に所属した宇都宮ボーイズでは、慶應義塾のキャプテン・加藤右悟とエース・小宅雅己とチームメートで、「文武両道を貫きたい」と石橋に進学した。
普段は「4番・ショート」が主戦場だが、マウンドに上がれば、球友である小宅の「ピンチでも平常心で動じない」マインドを見習い、腕を振る。この試合でも2回、4回、5回と再三にわたるピンチを迎えてもストレートと変化球を低く、丁寧に集めて切り抜けた。
「代わるか?」
予め継投を想定していた監督の福田博之から促されたのは、右ふくらはぎが攣った試合後半だった。6回と7回に治療の時間を設けながら「最後は気持ちでした」と自分を奮い立たせた入江は、最後まで投げ切った。
4安打、11奪三振の完封劇を演じてみせたヒーローが、爽やかに汗をぬぐう。
「投げていてめちゃめちゃ楽しかったです」
チームのスローガンは「文武不岐」
自らが掲げている通り、入江はチーム随一の「文武両道」の体現者だ。
「勉強をしっかりすることで野球に繋がるし、野球を頑張れば勉強にも身が入るんで」
そうはきはきと答える入江に、部長の大山優が目じりを下げる。
「正直に言いますと、3年生の夏に引退するまでは部員たちの成績がそこまでいいわけではないんです。そのなかでも入江はテストでクラス2番目の成績ですし、野球も勉強も本当に両立してくれています」
石橋には“学問のすすめ”がある。
文武不岐。
簡潔に説明すれば「学問を極めることは、武道の修練を積むことと同じであり、その逆も然り」といった四字熟語であり、まさに入江が実践していることである。常日頃から「勉強を疎かにしている者は野球も上達しない」と選手に説く監督の福田には、「文武不岐」を見習うチームがある。
滋賀の彦根東だ。