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合言葉は“文武不岐”…「練習は毎日2時間」「グラウンドは他部活と共用」「宿舎では勉強」でも“偏差値66”栃木の公立進学校が甲子園で勝てたワケ
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2024/08/14 17:01
中学時代は宇都宮ボーイズで全国制覇の経験もある入江祥太。高校は「勉強にも力を入れたい」と公立進学校の石橋を選んだ
「ランナー一塁でボールをこぼしたとして、一塁に投げても間に合わなそうだと思ったら偽投してセカンドベースでオーバーランしたファーストランナーを刺すとか。これを意識することで、焦って一塁への暴投とか無駄なミスをしないようになりました」
原は夏の栃木大会で、ゴロが顔面に直撃し歯が折れても、冷静に「次のプレー」へと集中してアウトとするなど意思を全うした。
このような攻守の徹底が実を結び、今年のセンバツ出場校の作新学院や国学院栃木といった強豪を撃破して甲子園出場を決めた石橋は、その強さが決してフロックではないことを証明してみせた。
実力で勝ち取った甲子園でも、石橋らしさは随所にあった。
06年夏に甲子園を沸かせた早稲田実のエースと同姓同名の、聖和学園の先発・斎藤佑樹とエースの千葉桜太に低く、強い打球を浴びせて5点を奪った。入江が「自分たちのバッティングができた」と誇るように、27アウト中フライアウトはわずか4つだった。守りでも2つのエラーを記録したが、そこから無駄なミスに繋げることはなかった。
創立100周年の節目の年に甲子園への扉を開き、勝どきを上げた。戦いはまだ続くが、文武両道の石橋野球部は宿泊先でも机に向かう。キャプテンの田口皐月が引き締める。
「甲子園に来ても、自由時間を使って各自で勉強しています。野球をするときは野球。勉強をするときは勉強。集中するときは片方を持ち込むと効率が悪いし、吸収もできなくなるんで、そのオン・オフは大事にしています」
部員の多くは引退後に成績が急上昇
部長の大山によると、昨年の3年生は高校野球を引退するまで第1志望の大学の評定が「E判定」だった選手が多かったのだという。それが、卒業する頃には国公立大学への進学を望むほとんどが志望校に合格したというのだ。
大山が感心する。
「やはり、野球を頑張ってきたことが勉強にも生かされるんですよね。引退するまでは『大丈夫かな?』と思っているような生徒でも、成績がすごく伸びるんです」
石橋の心――文武不岐。
甲子園で燃焼する。それは、学問向上の大きな助走となる。