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男子100m「史上最激戦」決着のウラで…準決勝敗退でもサニブラウンが見せた“成長の跡”「スタートの音が聞こえなかった」から5年での進化 

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和田悟志

和田悟志Satoshi Wada

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photograph byRyosuke Menju/JMPA

posted2024/08/09 11:00

男子100m「史上最激戦」決着のウラで…準決勝敗退でもサニブラウンが見せた“成長の跡”「スタートの音が聞こえなかった」から5年での進化<Number Web> photograph by Ryosuke Menju/JMPA

パリ五輪100m準決勝で9秒96の自己ベストをマークするも敗退したサニブラウン。それでもそこには過去からの「確かな成長」が見えた

 ただ、前年のオレゴン世界選手権から順位を1つ上げたばかりか、2大会連続で決勝に進んだ選手はサニブラウンを含めて3人しかいなかった。十分に存在感を示すことはできただろう。

 このように世界大会で実績を積み重ね、今回のパリ五輪を迎えた。

 予選でいきなり、五輪での日本人最高記録となる10秒02をマーク。組2着となり、難なく準決勝進出を決めた。落ち着いたレースぶりは、いきなりトップギアには入れずに調子を確認しているように見えた。本人にとっても、「まずまず良い感じで走れた」と言うように、好感触をつかんだ様子だった。そして、準決勝ではさらに記録を伸ばしてきた。

「金メダルを狙っていきたい」と口にしていたのは、決してはったりではなかった。

 一方で、東京五輪の100mを制したマルセル・ジェイコブス(イタリア)や、同200m金メダルのアンドレ・ドグラス(カナダ)といった世界のトップスプリンターと練習を共にしているのだから、世界のトップとの距離は痛いほど実感してきたはずだ。

 それでも、金メダルという目標を引き下げることはせずにパリに乗り込んだ。

日本人で「複数回の9秒台」はサニブラウンだけ

 サニブラウンが9秒台で走ったのは、今回のパリ五輪・準決勝が6度目だった。かつては夢の記録だった9秒台を、現在は4人の日本人がマークしているが、実は複数回走ったのはサニブラウンだけだ。

 しかも、自身3度目と4度目が世界選手権、そして6度目が今回のパリ五輪と、世界大会なのだ。この事実が、サニブラウンの大舞台での強さを物語っている。

 今回に関していえば、他の多くの日本代表に比べて、一足早くパリ五輪に内定したことで、日本選手権を回避し入念な準備をしてパリ五輪に臨めたことにメリットもあったはずだ。とはいえそれを差し引いても、ターゲットレースに合わせてきっちり仕上げてくるのはさすがとしか言いようがない。

 東京五輪後の2022年以降は世界大会で安定しているが、それ以前は数々の栄光と共に、いくつかの苦い思いも味わってきた。

【次ページ】 縁が無かった五輪の舞台…4年後のロスに期待

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