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男子100m「史上最激戦」決着のウラで…準決勝敗退でもサニブラウンが見せた“成長の跡”「スタートの音が聞こえなかった」から5年での進化
posted2024/08/09 11:00
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph by
Ryosuke Menju/JMPA
パリ五輪の陸上競技・男子100mは、史上稀に見るハイレベルなレースになった。
その準決勝。サニブラウン・アブデルハキーム(東レ)は、9秒96の自己ベストをマークした。しかし、決勝に進めるのは全3組の各組2着までと、3着以下のタイム上位者2名。4着に終わったサニブラウンは惜しくも決勝を逃した。
「アップも調子よくて、全部出し切る勢いでスタートしたんですけど、うまく最後まとまりきれなかったのが、ちょっと失速したきっかけになった。(終盤に)伸びてくる選手は伸びてくるので、力まずしっかり自分のレースをすれば、食らいついていけると言われていたんですけど、ちょっとオーバーストライド気味になってしまった部分があったのかなと思います」
フィニッシュ直前に着順を気にしてしまったのもあっただろう。自己記録、そして日本歴代2位の好記録でも、サニブラウンにとって会心のレースではなかった。
準決勝ではサニブラウンを含む12人が9秒台をマークしたが、9秒台でも決勝に駒を進められなかったのは五輪史上初めてのことだった。決勝進出ラインは9秒93。サニブラウンはわずか100分の3秒届かなかった。
「ちょっとずつ追いつくだけでは足りない」
フィニッシュ後、「世界のトップとの距離は縮まっているのか」と問われたサニブラウンは、「そうですね。う~ん」とまず一拍を置き、言葉を続けた。
「縮まっているのは縮まっているんですけど、世界の皆さんもどんどん先に行っているんで。本当にちょっとずつ追いつくだけでは足りないなということを、身に染みて感じました」
決勝進出に足りなかった100分の3秒、そして金メダルまでの距離を冷静に受け止めていた。
サニブラウンが決勝に進出していれば、この種目における日本人にとっては92年ぶりの快挙だった。近年の世界大会の実績からみても、サニブラウンには十分可能だっただろう。
しかし、サニブラウンが目指していたのは金メダル。仮に決勝に進んでいたとしても、おそらくそれだけで満足することはなかったに違いない。