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「俺、負けたわ…」男子100m金ライルズがゴール後に誤認! わずか5センチが命運を分けた五輪史上最大の激戦…サニブラウンも「レベルが全然違う」
posted2024/08/08 11:15
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph by
Getty Images
死力を尽くした8選手がフィニッシュラインになだれ込んだ。
4レーンのジャマイカのトンプソンと7レーンの米国のライルズがほぼ同時にフィニッシュしたように見えた。
「勝ったのは誰か」
二人は互いに視線を送る。
彼らもどちらが勝ったのか分からない。
ライルズはトンプソンに歩み寄り、「俺、負けたわ。(金メダルは)お前のものだ」と話しかけると、トンプソンは半信半疑の表情を浮かべる。
大型スクリーンの「Photo(写真判定)」という文字が僅差であったことを窺わせた。
わずか5センチ差の命運
競技場にいる全員の視線がスクリーンに集中し、ほどなくして公式の順位が出るとライルズは顔を大きく歪め信じられないという表情をした後、叫びながら跳びはね、全身で喜びを表現した。
「(1位の)心の準備ができていなかった」
1位ライルズは9秒784、2位トンプソンは9秒789で0秒005差、わずか5cmが命運を分けた。
「レーンが離れていたのでキシェイン(・トンプソン)が見えなかったし、負けたかなと思った」
フィニッシュ後をこう振り返る。
ライルズはスターティングブロックを蹴る反応タイムが0秒178で、これは8選手中最下位だった。
「スタートで少し遅れて前半は良くなかった。でも今までもっと酷い走りもあっただろう。それでも後半盛り返しただろう。だから大丈夫だ、この瞬間のために3年間、努力を重ねてきたんだ。毎年タイムも縮めてきた。今までやってきたことを爆発させるんだ、と言い聞かせながら走った」
世界選手権3冠で臨んだパリ五輪
3年前の東京五輪では金メダル候補だった200mで3位に沈み、ミックスゾーンでは膝から崩れ落ちて号泣した。
「僕はここに相応しくない。頑張ってもこの舞台に立てなかった人が沢山いるのに、不甲斐なさすぎて申し訳ない」
コロナ禍に軽い鬱になり、その影響で精神面が脆くなっていたことをのちに明かしてくれた。