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「自信を失った選手を使うことはできません」…なぜトム・ホーバスHCは富永啓生を“使えなかった”のか? その「最大の理由」と「チームの課題」 

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ミムラユウスケ

ミムラユウスケYusuke Mimura

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photograph byKaoru Watanabe/JMPA

posted2024/08/07 17:01

「自信を失った選手を使うことはできません」…なぜトム・ホーバスHCは富永啓生を“使えなかった”のか? その「最大の理由」と「チームの課題」<Number Web> photograph by Kaoru Watanabe/JMPA

日本史上最高のシューターの呼び声も高かった23歳の富永啓生だが、パリ五輪ではほとんど出場機会を得ることができなかった

 しかし、今大会の富永のように明らかに調子が上がっていない選手がいたとしたら、試合中でもタイムアウトを使って彼のメンタルに響くような言葉を投げかけたり、彼を活かすようなプレーを積極的に授けても良かったのではないか。終始リードされる展開だったドイツ戦でもブラジル戦でも、タイムアウトは残っていたのだから。

 今大会の準々決勝でオーストラリアに最大24点差をつけられながら、延長戦の末に逆転勝ちを果たしたセルビア。第2クォーターにタイムアウトをとったセルビアのスヴェスティラブ・ペシッチHCが、戦術ボードを持って指示するのではなく、烈火のごとくゲキをとばし続けて奇跡の逆転劇の口火を切ったのとは対照的だった。

 また選手の「個の能力」を考えれば仕方のない部分が大きいのは理解の上で、結果的に特定の選手のプレー時間を延ばしすぎたことも課題だったように思う。1試合は40分だが、平均出場時間は渡邊雄太が36.9分、ジョシュ・ホーキンソンが36.5分、八村塁が32.2分。八村に退場や怪我がなければ、さらに長い時間プレーしていたのは想像に難くない。選手たちに疲労がたまり、それは結果的に最後のブラジル戦でチームに大きな影響を与えることになった。

短期決戦だからこそ…「勝負手」はなかったか

 もちろん彼らのようなサイズと能力を兼ね備えた選手に替えが利きにくいことは承知だが、それ以外の選手を「信じる」時間帯をもう少し作るべきだった。「信じる」ことはホーバスHCの信条なのだから。

 パリ五輪での3つの敗戦を経て、さらに上の結果を目指すのならば、選手たち自身が成長しないといけないのは当然だ。ただ、コーチやスタッフも成長していかなくては、チーム全体の成長はない。

 ホーバスHCは日本代表の活動がないときには、大学やNBAの練習を見に行くという。そうした積み重ねが、選手を成長させる能力につながっているのは間違いないだろう。ただ、今後も日本代表を率いるのであれば、これまで以上に短期決戦に特化した結果を出すための方策や、試合中の采配は改善していく必要がある。そうしたアイデアや経験を持つアシスタントコーチを招き入れることも考えるべきだ。それができれば、日本チームはさらに強くなる可能性を秘めている。

 今回の五輪で富永が蚊帳の外に置かれた理由としては、彼自身に足りなかった部分があったのはもちろんだ。ただ、強豪国と対峙したときに現れたチーム全体としての課題も、決して忘れてはいけないはずだ。

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富永啓生はなぜ「使われなかった」のか? プレー時間は1試合平均わずか2分…日本バスケ“史上最高のシューター”がパリ五輪で輝けなかったワケ

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