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核心にシュートを!BACK NUMBER
「自信を失った選手を使うことはできません」…なぜトム・ホーバスHCは富永啓生を“使えなかった”のか? その「最大の理由」と「チームの課題」
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2024/08/07 17:01
日本史上最高のシューターの呼び声も高かった23歳の富永啓生だが、パリ五輪ではほとんど出場機会を得ることができなかった
また、五輪の試合を見返してみると、短い時間ではあったが富永がフリーになるような動きをチームメイトがしていた場面も多々あった。そこで富永がフリーになるだけのパワーと、何が何でもボールをもらいに行くだけの心理状況になかったこともうかがえる。
ただ、富永だけに原因があるわけではないはずだ。4つ目の理由は、ホーバスHCの采配が関係している。
32カ国が参加できるW杯とは比較にならないほどレベルが上がるのが、12カ国しか出場できない五輪の舞台だ。そのレベルにあるからこそ、今回は指揮官の課題も見えてきた。
ホーバスHCの「勝負師」としての采配は…?
まず大前提として、ホーバスHCは選手やチームを成長させる能力に長けた、優秀な「指導者」だ。
河村勇輝が選手として一皮むけるためのヒントを与え、キャプテンの富樫勇樹も成熟させた。そして、吉井裕鷹のようなBリーグでの出場時間が短い選手を登用し、チーム力を向上させた。ホーバスが成長させる力を持ったコーチであることに異論はない。
一方で、今大会の「勝負師」としての采配には疑問が残るものもあった。
わかりやすいのがタイムアウトの取り方だ。前半に2回、後半に3回使えるタイムアウトをどう使うかは、まさに勝負師の腕の見せ所だろう。チームの戦術に変更を加えることも、相手の戦術への対抗策を提示することもできる。もちろん、選手のメンタル面に働きかけることもできる。
しかしホーバスHCはもともとタイムアウトを取るのをあまり好まないコーチで、与えられたタイムアウトを使い切らない試合も多い。
一般的に、負けているチームはタイムアウトを使い切ることが多い。しかし、ホーバスHCは、ドイツ戦では前後半に1回分ずつ、ブラジル戦では後半に1回分、与えられたタイムアウトを消化しきらずに終えた。
タイムアウトを取りたがらない理由について、東京五輪後に出版した『ウイニングメンタリティー』(ベースボール・マガジン社)のなかで本人は2つ挙げている。「仮に試合中に悪い流れの時間帯があったとしても、タイムアウトを取ると、相手に休ませる時間を与えることになります」というのが1つ。もう1つが「流れが悪くなっても、そこで私がタイムアウトを取って指示するのではなく、選手に委ねたいから」だ。