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オリンピックPRESSBACK NUMBER
「世界から最も遠い」と言われたハードル種目が一躍「五輪でメダル候補」のナゼ 陸連育成担当が語る“活況の秘密”「最大の理由は…」
text by
山崎ダイDai Yamazaki
photograph by(L)Getty Images、(R)Asami Enomoto
posted2024/08/04 06:00
かつては「世界から最も遠い」といわれたハードル種目でメダルを狙う泉谷駿介(左)と村竹ラシッド(右)
そんな状況を考慮した上で、山崎一彦委員長(順大教授)をはじめとした日本陸連強化委員会がデータ分析を進めると、ジュニア選手の多くが急にハードルの高さが上がることで踏切時のブレーキ局面が大きくなり、本来持つスピードのポテンシャルを活かせなくなっている状況が明らかになったという。
「ハードルの技術練習への時間がかかりすぎて、根本的な短距離の走力を伸ばしにくくなっていた。また、フラット種目での走力のある選手が、それを敬遠してハードルをやらなくなってしまうケースもありました」
世界が低めのハードルを使い、若年期のスピード強化に勤しんでいたのに対し、日本だけがある意味でガラパゴス化していた。その結果、2000年代には日本記録と世界記録の差が陸上競技の主要種目のなかで最も乖離してしまっていたのだった。
ジュニア規格のハードルを使う意味は?
そこで、日本陸連はジュニア規格のハードルで走ることのできる主要大会を増やす決断をした。
いまでもインターハイこそシニア規格のハードルを使っているものの、泉谷や村竹が高校生の頃には、陸連が主催するU20日本選手権や秋の国体などでは、ジュニア規格のハードルを使うようになった。
結果的に、根本的なスプリント能力のある選手が、そのまま自身の力をハードルでも発揮できるようになった。それが近年の驚異的な記録上昇に繋がっているという。
「高山選手や泉谷選手はフラットの100mでも10秒3台の記録で走っています。そのスプリント力がそのままハードルでも活かせるようになりました」
そしてその規格変更には副次的な効果もあったのではないかと杉井氏は言う。
「高校に入ってシニア規格のハードルの技術習得に時間を費やしてしまうと、他の競技をする余裕がなくなってしまうんです。結果的にハードルで結果が出せた選手ほど、それ以外の種目をやらなくなってしまっていた。そうすると高校時代は技術力で誤魔化せても、シニアになって技術力で並ばれた時に、身体能力で負けてしまうんです」