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球体とリズムBACK NUMBER
「マンUでクリロナにディスられた監督」「万能主将アラバはケガで出場NG」なのに…オーストリア“EURO躍進のナゼ”「心から楽しんでるよ」
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2024/06/29 17:01
フランス、オランダを差し置いてのグループ首位通過。智将ラングニック率いるオーストリアは、なぜ台風の目になれた?
「問われるのは、いかに歩みを進めていくかだ。僕らはここ数日、本当に良い準備をしてきた。このチームは誰が出ても、なにひとつ変わらない。全員がそれぞれの役割を、完璧に心得ているからね」
攻撃時には、ボールホルダーの周囲で数人が動いてパスコースをつくり、チャンスと見れば前線やサイドに強いパスをつけて、一気にゴールを目指す。ボールを失っても、選手全員に即時奪回の意識が染み付いており、相手の陣形が崩れているその瞬間に囲い込んで奪い返せば、ゴールはより近くなる。
万能アラバは“プレーしないキャプテン”として
「うちのベンチには、フットボールのイロハを知り尽くしている人がいる」とザビツァーは付け加えた。誰のことを指しているのかは、聞かなくてもわかる。
「このチームとスタッフと過ごす毎日を、心から楽しんでいるよ。できるだけ長く、ここに留まりたい」
ラングニック監督の哲学が浸透しているオーストリアは、彼が率いた頃のユナイテッドよりもクラブチームのように見える。イングランドで頑固というレッテルが貼られた指揮官は今、戦術家としての手腕だけでなく、優れたマネジメント能力も発揮している。
ひざの重傷により本大会に参戦できなかったダビド・アラバを、“プレーしないキャプテン”として帯同させたのだ。さらにレギュラーだったMFクサバー・シュラーガーとGKアレクサンダー・シュラーガーも、故障によりメンバー外。つまり、主力を3人も欠きながら、困難なグループで列強国を上回ったのだ。
「この組をトップで突破できたことは、信じられないほどに素晴らしい。我々のエネルギーに溢れる勇敢なパフォーマンスが報われた形だ」とオランダ戦後にラングニック監督は語った。
以前も今も“EUROで優勝できる”とは…
ハードなプレッシングスタイルは、最終ラインの後ろに広大なスペースを生むため、相手にそこを突かれ、ピンチを招くこともある。しかしそのダイナミズムに満ちた戦いぶりは、選手だけでなくファンの心も掴み、隣国ドイツには今、たくさんのオーストリア人が駆けつけているという。