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球体とリズムBACK NUMBER
「マンUでクリロナにディスられた監督」「万能主将アラバはケガで出場NG」なのに…オーストリア“EURO躍進のナゼ”「心から楽しんでるよ」
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2024/06/29 17:01
フランス、オランダを差し置いてのグループ首位通過。智将ラングニック率いるオーストリアは、なぜ台風の目になれた?
「彼のことをボスと呼んでいたが、実のところ、一度も彼をボス(監督)と考えたことがなかった。何しろ、彼は過去数年、現場を離れてスポーツディレクターを担っていたのだから」
つまり赤い悪魔と呼ばれる名門クラブでは、選手のハートを掴むことができず、要求の多いプレッシングスタイルを植え付けられなかった。結局、2021-22シーズンのプレミアリーグで6位に終わり、ラングニックは暫定監督の座を離れ、次のシーズンからコンサルタントになる契約も行使しなかった。
フランスに敗戦後、監督が選手を称えたワケ
そんな頃にラングニック監督に声をかけたのが、オーストリアだった。
この中堅国の代表チームも当時、ユナイテッドと同様に苦しんでいた。カタールW杯の予選で敗退し、ファンからも見放されつつあった。だがスター選手のいないオーストリアは、同じドイツ語を話す新指揮官の言葉に熱心に耳を傾け、チームはダイナミックに生まれ変わっていった。
本大会までの2年間で、オーストリア代表は結束した組織的な集団となり、ベルギーやスウェーデンらと同居した予選を2位通過し、戦前の親善試合ではドイツやトルコらに快勝。フランスとの今大会初戦では、個々の能力では圧倒的に上回る相手と互角の勝負を演じながら、不運なオウンゴールにより0-1で敗れた。
「フランスには敗れてもおかしくはないと思っていた。私たちは非現実的な夢想家ではない」とラングニック監督は試合後に話した。
「ただうちの選手たちは称えたい。彼らは持てる力のすべてを出し切ってくれたのだから」
そんな言葉でいま一度チームを奮い立たせると、次のポーランド戦に3-1で勝利。さらにオランダとのグループ最終戦では、激しいシーソーゲームを制して3-2の白星を掴み、他会場で引き分けに終わったフランスを抑えて、グループDを首位通過したのだ。
MOMのザビツァーが「完璧に心得ている」ものとは
「フットボールでは物事が瞬時に変わる。浮き沈みもつきものだ」と話したのはオランダ戦で決勝点を奪い、MOMに選出されたマルセル・ザビツァーだ。