- #1
- #2
進取の将棋BACK NUMBER
「まるで井上尚弥選手です」なぜ藤井聡太21歳は八冠窮地でも“余裕”に見えるか…「極めつつある」タイトル経験者・中村太地36歳が驚く進化
posted2024/06/20 06:00
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph by
Keiji Ishikawa/JIJI PRESS
カド番でも、いつものような心持ちで……いや、そういった感覚すら超越しているのかもしれない。
叡王戦第4局、藤井聡太叡王の戦いぶりや立ち振る舞いを見聞きしての正直な感想です。藤井叡王は2024年度を迎えて、名人戦と叡王戦という2つのタイトル戦を並行して臨んでいました。
名人戦では豊島将之九段を相手に4勝1敗で初防衛に成功するとともに――世間一般の注目が集まっているのは叡王戦かな、と感じる機会がありました。
それは第3局で挑戦者の伊藤匠七段が勝利したことによって、藤井叡王から見て1勝2敗と後がなくなる状況、いわゆる「カド番」に追い込まれたからです。
初のカド番でも、藤井叡王の気持ちは揺れなかった
藤井叡王は昨秋、王座戦での劇的な逆転劇によって八冠独占を成し遂げたわけですが、それを維持するためには当然、各々のタイトルを防衛し続けなければなりません。ご自身はタイトル戦をハイペースでこなす一方で、棋士たちの「藤井将棋研究」は進む。ある意味、達成のプロセス以上に難しい偉業に挑んでいると表現してもいいでしょう。
2020年の初タイトル獲得から4年弱を経て「初めて先にカド番」となりました。その事実もまた、藤井叡王の強さを表すものですが、今回、藤井叡王はカド番でどのような戦いぶりを見せるのかという点で注目していました。
私も2013年王座戦で、羽生善治先生相手に「タイトルまであと1勝」という状況にたどり着きました。しかし結果はそこから2連敗。カド番になってからの羽生先生の強さを身をもって体感したからこそ……藤井叡王がどんな力を発揮するのだろうという興味が湧きました。
その叡王戦第4局、藤井叡王は後手番でした。伊藤七段が選択した角換わりを受けて立つなど、対局中の姿勢などは「普段通りで気持ちの揺れが全くないのだな」と感じていました。将棋自体も藤井叡王らしい指し回しで完勝し、2勝2敗のタイに戻しました。
前夜祭のスピーチに感じた「心理的な余裕」
さらに藤井叡王について、前夜祭などの様子を聞くと、語弊を承知の上で「心理的に余裕」があるのでは、と感じることがありました。
そう思ったのは、前夜祭のスピーチの言葉です。