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進取の将棋BACK NUMBER
同学年・藤井聡太21歳から「タイトル奪取あるのでは?」伊藤匠の才能をA級棋士・中村太地が語る「“寝て起きたら強くなる”時期に2人は…」
posted2024/06/20 06:01
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph by
Keiji Ishikawa
伊藤七段が藤井叡王に勝利した5月2日の叡王戦第3局、私はABEMAの解説を務めました。本局を簡潔にまとめると〈藤井叡王がやや抜け出しそうになったところ、伊藤七段が競り合った末に抜け出して逆転勝利を飾った〉という展開でした。実際、評価値が示していた形勢もそれを描いていました。
「タイトル奪取、あるのでは?」と感じるほど
現地に行かれた方の話を総合すると……藤井叡王自身もやや優勢であることは自認して指し進めていたのではないかと推測します。あの将棋ではきっと、藤井叡王の中にも見えていない変化、考えられていない水面下での変化が非常に多く深かったのだと思います。
だからこそ、その将棋に持ち込みながら勝利をものにした伊藤七段の強さが際立ったというか、「これはタイトル奪取、あるのでは?」と第3局の解説が終わった時点で感じさせられるものでした。
そもそも伊藤七段が形勢を入れ替えたとはいえ、そこから勝ち切るのも非常に大変な将棋だなと感じていました。優勢になってから終局を迎えるまでに数十手ほどかかっているのですが、藤井叡王が逆転を狙うために仕掛けた手に対しても、的確に対応していた。
本局で言うと、伊藤七段の攻めに対して受けの手を続けていた藤井叡王が、突然「4三桂」と攻めてきた。このように藤井叡王は不利になってから「相手に難しい手を渡す、難しい局面を相手に提示する」能力にもすごく長けているのです。
今までだと藤井叡王に再逆転を許して……という対局はファンの方も何度かご覧になってきたかと思います。だからこそ伊藤七段の終盤の正確さに舌を巻くばかりです。
1勝1敗のタイとした第2局もそうでしたが、勝利するためのルートはほぼ唯一のものでした。その針の穴に糸を通すようなギリギリの進路を、秒読みの中でも選びきるという点に伊藤七段の非凡さが表れていました。さらに言えば、この1勝は伊藤七段自身にとっても「終盤で藤井叡王相手に競り勝てた」という、大きな自信になったのではないでしょうか。
実際に対局して感じた〈ストレート真っ向勝負〉
伊藤七段は昨年度は竜王戦と棋王戦、そして今期は叡王戦と、この1年で3度のタイトル戦挑戦を果たしています。藤井叡王と同じ21歳ということで徐々に注目が集まっているのは1人の棋士としてひしひしと感じますが――私の目から見た印象についてお話しできればと。