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ダルビッシュ有が変化球をコーチから酷評された日…プロのまねをしていた少年が37歳で日米通算200勝を達成するまで「理想の投球はない」
posted2024/05/22 17:00
text by
四竈衛Mamoru Shikama
photograph by
Nanae Suzuki
プロ入り当時、「気が遠くなるような数字」と感じた大記録に到達したパドレスのダルビッシュ有は、次に目指すものを、簡潔な言葉で口にした。
「201勝目ですね。次の試合、またホームで投げると思うので、その試合しっかり投げられるように、長いイニングを投げられるように調整していきたいと思います」
2005年。18歳でプロ初勝利を挙げて以来、まもなくプロ生活20年目。NPBで93勝、MLBで107勝と、両国で200の白星を積み重ねた37歳右腕は、噴き出す汗をタオルで拭った後、あらためて自らに言い聞かせるかのように顔を上げた。
MLBでも随一の変化球使い
身長196センチ、体重100キロ。アスリートとして、体格に恵まれたことは間違いない。だが、素質だけで超一流の領域に足を踏み入れられるほど、甘い世界ではない。
ダルビッシュは、少年時代から変わることのない好奇心と、常に過去の常識に疑問を持ちつつ、新しいことに挑む研究熱心さで、節目の大記録へ到達した。
昨今のメジャーでは、時速150キロ後半どころか、100マイル(約161キロ)を超える快速球を投げ込む投手は珍しくない。ただ、ダルビッシュほど、多種多様な変化球を自在に操る投手はいない。世界最高レベルのメジャーで闘う上で、投球の基盤が速球であることは間違いない。だが、デジタル表示の球速を争う競技でもない。少年時代から他の同学年投手よりも格段に速い直球を投げられたにもかかわらず、ダルビッシュは技術や工夫を要する変化球に魅了され、常に試行錯誤を繰り返してきた。