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「長谷部誠の引退会見…記者がハンカチで目を」ドイツ人記者と仲間に愛された40歳は“未来の名将”「プロの鑑」「シャビ・アロンソと同様だ」
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フィリップ・セルドーフ/南ドイツ新聞Philipp Selldorf / Süddeutsche Zeitung
photograph byTakuya Sugiyama
posted2024/04/29 17:01
2011-12シーズン、ボルフスブルク時代の長谷部誠。17シーズンものキャリアをブンデスで積み重ねたレジェンドには、ドイツ人も称賛を惜しまない
プロスポーツの契約更改の場には、面倒な交渉のイメージがついてまわるが、長谷部のケースは至ってシンプル。クレーシュの前任のフレディ・ボビッチは、こんな逸話を明かしたことがある。
「ある朝、マコトに『あともう1年、ここに選手として残る気はあるかい?』と尋ねたら、『喜んで』と返事があった。翌週に正式な場を設けたら、彼は前年と同じ契約に笑顔でサインしたよ。我々の間に、駆け引きはまったくなかった」
長谷部が会見を終えると、ハンカチで目許を抑える記者も
長谷部はそんな風に引退を撤回し、選手契約を延長したことがある。だから今年も、もしかしたらと、心のどこかで期待していた人もいたかもしれない。けれど、逆に開かれたのは、引退会見だった。
「難しい決断でした」と長谷部は集まったメディアに説明した。
「でも5、6年ほど前から、この時が来ると感じていました。それが今であり、正しいタイミングだと思います」
30分ほどの会見が終わる頃、クラブのプレスオフィサーは長谷部のことを「良識の人物」と表した。すると翌日の地元紙はこの言葉こそ、「ハセベのすべてを的確に現している。彼は人生で大きな意味を持つ、誠実さ、自己犠牲の精神、謙虚さを兼ね備えた人物だ」と書いた。
長谷部が会見を終えて退場すると、多くのジャーナリストの感情が揺れ、日本人記者のなかにはハンカチで目許を押さえている人もいた。
長谷部がブンデスリーガで選手として過ごした期間は、ドイツの前連邦首相アンジェラ・メルケルの在任期間よりも長い。どちらも本人さえ望めば、もっとそこにとどまることもできたはずだが、いつにするかは自分で決めるべきだと考えたのではないか。チームや国に、自らが貢献できなくなる前に。
「マコトは完璧なロールモデル」「プロの鑑」
今シーズン終了後も、長谷部はフランクフルトに残る。まだ決定してはいないが、おそらくユースチームのアシスタント・コーチになるのではないかと目されている。多くの人が期待しているように、きっと彼なら、素晴らしい指導者になるだろう。