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「わずか5分で570万円の損失が」それでも2カ月後には数百万円を…角界“野球賭博事件”の元力士が語る“賭博沼”の恐怖「水原さんの心境もわかる」
text by
欠端大林Hiroki Kakehata
photograph byHitoki Kakehata
posted2024/04/25 17:30
事件の“首謀者”のひとりとして有罪判決を受けた押尾川部屋の元幕下力士・古市満朝氏(左)と高校野球で実際に使われた賭博表(右)
大相撲野球賭博事件が表面化したきっかけは、元関脇・貴闘力の大嶽親方が珍しく500万円の勝ちをおさめたとき、その勝ち金を胴元の梓弓が精算できなかったことに始まる。
違法賭博の「生態系」は極めて脆弱な土台の上に成り立っているが、それを支えているのは賭博者の「何としてでも賭けたい」という病的な欲求に他ならない。
ロッテに賭けた300万円が大逆転で…
通算で少なくとも数千万円を野球賭博で溶かしたという古市氏だが、過去にひどい負けを喫し「区切りをつけよう」と決意したことが2度あったという。
「いずれも2007年のことでした。6月16日のセ・パ交流戦、阪神―ロッテ戦と、この年夏の甲子園、佐賀北(佐賀)と広陵(広島)の決勝戦です」
当該の阪神―ロッテ戦(千葉マリンスタジアム)で、古市氏はロッテに300万円を張っていた。この年のロッテはめっぽう強く、僅差で優勝(日本ハム)を逃したものの、最終的にエース成瀬善久が16勝、小林宏之は13勝をマーク。
薮田安彦、藤田宗一、小林雅英の「YFK」も健在で、この阪神戦ではロッテ側から「1半」のハンデが出るほどの人気だった。これはロッテが2点差以上をつけて勝たないと、完全勝利にはならないことを意味する。
試合は古市氏の狙い通り、8回を終了した時点でロッテが7-2とリード。あとは9回の表、阪神の攻撃を残すのみで、マウンド上の藤田を含めて「YFK」は3枚とも投げられる状態。どこから見ても勝ち(300万円から1割引かれ270万円勝ち)確定の状況だったが、悪夢の展開が待ち受けていた。
藤田が3連打を浴びたうえ、守護神・小林雅英がタイムリーを許し2点を返される。さらにエラーとヒットで同点とされ、最後は薮田もメッタ打ち。この回大量9点が入り、試合は11-7で阪神が歴史的逆転勝利を飾った。