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「藤井聡太さんと羽生善治さんは“将棋が人間の形”をしている」鈴木大介が真剣勝負で味わった“超・天才性”「恐怖という概念がないのか…」
posted2024/03/10 11:00
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph by
Keiji Ishikawa
藤井聡太の衝撃「“壁”と将棋をやっている感じ」
それは壁だった。あるいは、泰然自若とした木鶏であり、大地に深く根を下ろした巨樹のようでもあった。
2020年7月29日、第79期B級2組順位戦。2週間前に史上最年少のタイトルホルダー(棋聖)となった藤井聡太と対峙した鈴木大介は、幼さと鋭さが同居した双眸で盤面を凝視する18歳の集中力に「普通ではない何か」を認めていた。
「棋士も人間ですから、物音がしたり、相手が席を立ったりすると反射的に目で追ってしまったりするものですけど、藤井さんは身じろぎひとつしない。言い換えるなら、集中が切れる瞬間がない。自分より強い棋士がそこまで隙のない状態になると、“壁”と将棋をやっている感じというか……。何をしても跳ね返されるような気がするんですよ」
眼前の棋士は自分よりはるかに若く、身体の線も細い。それでも、何をしても跳ね返される“巨大な壁”を幻視してしまう。あらゆる雑念を削ぎ落として将棋盤に没入する姿は、紛れもない天才のそれだった。
同対局は序盤からリードを築いた先手の藤井が、103手で鈴木に勝利した。現在のところ両者の公式戦はこの一局のみだが、その数年前にも、鈴木は藤井の天才性を間近で目撃したことがあった。
あの羽生さんが14歳の少年に負けるなんて…
14歳の中学生棋士の実力は、果たしていかほどのものなのか。
2017年に配信されたABEMA将棋チャンネルの企画『藤井聡太四段 炎の七番勝負』を、鈴木は野月浩貴とともにプロデュースする立場にあった。藤井の対戦相手は増田康宏や永瀬拓矢、斎藤慎太郎、中村太地といった気鋭の若手棋士に加え、タイトル獲得3期の深浦康市、永世棋聖の資格を持つ佐藤康光、そして当時三冠を保持していた羽生善治まで、錚々たる実力者ばかりだった。