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「血ヘドを吐きながら指した」二刀流棋士・鈴木大介が語る“将棋と麻雀の勝負観”「永瀬拓矢さんはもちろん…」「AIと完全一致はいけない」
posted2024/03/10 11:01
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph by
Hideki Sugiyama/Takuya Sugiyama
“藤井=無敵ではない”と示した永瀬の奮闘
99対1。
2023年10月11日、永瀬拓矢が藤井聡太を挑戦者に迎えた第71期王座戦の第4局。ここまで1勝の永瀬、2勝の藤井ともに持ち時間を使い切った最終盤、AIの評価値は圧倒的な「永瀬有利」を示していた。秒読みに追われた永瀬が、詰み筋のあった〈▲4二金〉を見落とすまでは。
永瀬の指した〈▲5三馬〉によって、形勢は一瞬にして藤井有利へと傾く。まさかの大逆転で史上初の八冠制覇は現実のものとなった。
だが、誰よりも悔しい立場で歴史的な瞬間を迎えたとはいえ、永瀬は藤井が必ずしも無敵ではないことを証明した。第1局では150手の激闘を制し、第3局も終盤まで優位を築くなど、序盤・中盤の研究と巧みな戦略によって、藤井を土俵際まで追い詰めてみせた。
“努力の人”永瀬の本質とは…若き日を知る鈴木の証言
永瀬が藤井の研究パートナーであることは将棋ファンに広く知られている。そんな永瀬のプロ入り後、数え切れないほどの「VS」(練習将棋)を重ねてきたのが鈴木大介だ。1日10時間超の練習量から“努力の人”というイメージで語られがちな31歳の勝負師の本質について、鈴木はこう証言する。
「永瀬さんは170人以上いるプロ棋士のなかでも、5本の指に入るほどの才能を持っています。ただ、その才を見せたがらないし、おそらくそこまで自覚もしていない。手の見え方、切れ味も素晴らしいんですが、あまりそこには執着していない感じですね。一般的には“努力の人”だと思われているのかもしれませんが、努力は大前提として、プロの世界でトップまで行くには才能がなければどうにもならないので……」
それでも鈴木からすれば、永瀬は「理解しやすい人」だという。