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Moto3でも空力開発競争勃発! 現代のバイクレースを席巻する空力パーツ開発のコストとマルケスの契約金はどちらが高い?
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2024/02/27 11:02
テスト走行するKTMのブラッド・ビンダー。プロトタイプとはいえ、多くの空力パーツが取り付けられたマシンのデザインは賛否両論だ
空力戦争以前、開発の主眼がエンジンに向けられていた頃は、どのメーカーも開発費として年間50億円程度を費やしていたと言われている。実際、バレンティーノ・ロッシがヤマハに在籍していたころは、ロッシの契約金が高すぎて(20億円前後)、ヤマハの技術陣は開発費がないとぼやいていた時期もある。
現在は物価上昇に空前の円安が加わり、日本円に換算するとメーカーの年間予算は100億円以内といった感じだろう。空力の開発コストはエンジンよりは安いが、その分多くのことを試すから、結果的に開発費の縮小にはつながらない。F1に比べればはるかに安いとはいえ、それでも多額の資金が必要となる。スペインの石油メーカー「レプソル」と長らくパートナーシップを結んでいるホンダは、多額の資金を補うためメインスポンサーからの収入をライダーの契約金に充てたと言われている。
一人破格なマルケスの契約金
余談になるが、今年ドゥカティのサテライトチームであるグレッシーニに移籍したマルク・マルケスのチームとの契約金はゼロだ(ホンダ時代は4年契約で100億円と言われていた)。しかし、マルケスのパーソナルスポンサーであるレッドブルが今季ホンダから離れ、その分がそのままマルケスとの契約金になったと言われている。その金額は500万ユーロとも700万ユーロ(約8億〜11億円)とも言われているだけに、マルケスにとっては、チームとの契約金がなくてもなんの問題もないということになる。
ついでに書いてしまうと、ホンダ時代、マルケスはオーストリア・キッツビュールのスキー場でスパイクタイヤを装着したMotoGPマシンRC213Vで雪の中を疾走した。これはレッドブルのPR撮影だったのだが、撮影を終えたマルケスは訪れていたレッドブルの創業者の故ディートリヒ・マテシッツさんにヘルメットをプレゼントした。それに感激したマテシッツさんが、「これまで何十人ものF1ドライバーを育ててきたが、こんなことをしてくれたのは君だけだ。レッドブルが一生、あなたの面倒をみよう」と白紙の小切手を渡したという嘘のような逸話を関係者から聞いたことがある。