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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「箱根は走れなかったけど…」東大“史上最速ランナー”が昨年大躍進のナゼ…5000m13分台、1万m28分台も「高校では月100kmしか走ってなくて」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYuki Suenaga
posted2024/02/16 11:01
昨年、長距離種目の東大記録を軒並み塗り替えた秋吉。箱根予選会でも54位と好走し、もし連合チームがあれば箱根路を駆けた可能性が高かった
高校3年の夏、県総体では日本の長距離界で今をときめく選手たちと競った。
「県総体の5000m、忘れられないです。僕の一学年下には西脇工業から旭化成に進んだ長嶋幸宝君と、報徳学園から東京農業大学で大活躍している前田和摩君がいて、決勝では一緒に走りました。
自分のレースパターンは、強い選手についていき、とにかく粘るというもので、この時は最初の1000mを2分48秒で入ったんですよ。かなりのハイペースです。それなのに9番手あたりだったと思います。『これは、とんでもないペースだ』とびっくりしました。近畿大会に出場できたらいいなと思っていたんですが、手が届きませんでした」
この時は15分11秒47で秋吉は9位、優勝は長嶋で、そこから國安、前田の順番だった。
7月に陸上部を引退し、そこからは東京大学を目指しての受験勉強が本格化する。
「夏休みは10時間くらい勉強しましたかね。集中力が切れそうになってきたら、机に突っ伏して仮眠を取り、パッと気分転換をしてから勉強する教科を変えていったりしました」
東大で「箱根駅伝を走りたい」という想い
それにしても、兵庫県で国立大学志望であれば、進学先として挙がってくるのは京都大学、大阪大学、地元の神戸大学が自然だろう。しかし、秋吉は「東京大学」を目指した。なぜなら、「箱根駅伝」があるからだ。
「高校で走り始めて、だんだん記録が伸び始めて、『箱根駅伝で走れたらいいな』と思ったんですよね。もしも、箱根というモチベーションがなかったら、京大や阪大という選択肢もあったかもしれません。それでも、自分は箱根駅伝を走りたかったので、なんとしても東大に入りたかったです」
そして2022年4月、東京大学理科Ⅰ類に入学する。
しかし、前述のとおり、東大の練習についていけない。箱根駅伝どころの話ではない。当然のことながら自信は喪失しかけていたが、なんとか夏合宿の練習メニューはこなせた。そして夏合宿の最後に20kmタイムトライアル(TT)が行われた。
「70分を切って、学部生でトップでした。このTTでなんとか自尊心を保てたという感じでした」
自信を取り戻した秋吉は、夏合宿を終えた後期から、「ある練習」を始める。
「『帰宅ジョグ』です。駒場(東大前)から、三鷹台まで」
京王電鉄井の頭線で12駅。
いったい、どれほどの距離があるのか?
<後編へ続く>