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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
“東大史上最速ランナー”秋吉拓真に思う箱根駅伝《学生連合チームの価値》…「専門は機械情報工学、在宅で採点バイト、飛躍の契機は帰宅ラン」
posted2024/02/16 11:02
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Atsushi Hashimoto
言わずと知れた日本最難関の大学である東京大学。高い入学難易度や国立大という背景も相まって、いわゆる「駅伝強豪大学」と比べると練習環境や選手層に大きな差があると言わざるを得ないのが実情だ。
一方で、そんな環境下でも2019年の近藤秀一や2020年の阿部飛雄馬など、時に箱根駅伝に手が届くようなランナーを輩出する年もある。そして現在2年生の秋吉拓真は今季、長距離種目の東大記録を軒並み塗り替え、名実ともに「東大史上最速選手」となっている。そんな「文武両道ランナー」の語った学生生活のリアルと、箱根路への想いとは?(全2回の2回目/1回目から読む)
秋吉拓真は、1年生の夏合宿を終えた後期から、「ある練習」を始めた。
「部活動のない月曜、金曜には駒場キャンパスから井の頭線の三鷹台駅のあたりまで10kmを走って帰るようにしたんです」
バックパックに教科書を詰めて、秋吉は夕刻の東京を走った。
この決断は大きかった。
高校時代、月間100kmほどしか走っておらず、土台となる脚づくり、そして長い距離を走る練習への耐性がなかった秋吉の弱点を補う練習になったのだ。
2023年、突然訪れた飛躍の1年
帰宅ジョグをはじめてまもなくして行われた箱根駅伝予選会では、1時間08分32秒のタイムで345位、学内では3位の成績を残せた。これで箱根駅伝への夢が復活し、2年生になった2023年、秋吉は飛躍の年を迎える。
箱根駅伝予選会のタイムを比較するなら、1時間08分32秒から、2023年の予選会では1時間03分17秒と、なんと5分以上もタイムを短縮した。この伸びを、秋吉自身はどう捉えているのだろうか。
「ケガがなく、順調に練習を積めたことがひとつ。それと、高校時代は距離をそれほど走っていなかったので、伸びしろがあったんだと思います。それと2年生になってからは『対校戦』で勝てたことが自信につながりました」
国公立大学の陸上では、アメリカ式の『対校戦』が極めて重要だ。各種目の順位によってポイントが与えられ、優勝を競うのだ。東大は次のような対校戦に出場している。
国公立戦
四大戦(群馬大、埼玉大、東京学芸大、東大)
七大戦(北海道大、東北大、東大、名古屋大、京都大、大阪大、九州大)
一橋戦
京大戦
2023年、秋吉は国公立戦から京大戦まで、5000mでは全勝した。