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人的補償の和田毅パニック…西武は“優しすぎた”のか? 待ち続けた山川穂高も移籍して…“ソフトバンクとの決定的違い”を記者は見た
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byJIJI PRESS
posted2024/01/16 06:00
「ソフトバンクの顔」ともいえる名投手、和田毅
その点、和田を獲得すれば、武内ら若手サウスポーに好影響があると見たのかもしれないし、西武の組織全体を底上げすると考えたのかもしれない。
もう一つの考え方として、憶測にはなるが、和田の現役引退後もチームに残って知識・経験を活かしてほしいと考えたのではないか。西武のファームシステムは今、大きな転換期を迎えている。「コーチ育成」が進められていて、松井稼頭央監督以下ほとんどのスタッフがコーチ研修を受けている。
球団の方針を、広池浩司球団副本部長はこう話していた。
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「選手の育成や戦略面について、主に現場に出ている監督やコーチにかなりウェイトがかかっていたと思います。選手たちを育成したり、試合に勝っていくことを考えるとコーチだけでなく、専門分野のエキスパートとコーチがフラットな関係でそれぞれの知識を融合していくことが大事だと思っています。『組織として戦う』ことをキーワードとして私たちは掲げていて、組織で戦うというのは人それぞれ、色々な知識が融合していくという意味なので、一人の力に頼らず、多く人の力を合わせてやっていこうと」
人格者であり、日米の野球を知る和田毅がこれ以上ない人材であることは容易に想像がつく。
見えた2球団の対称性…未来はどちらに?
とはいえ、ポジションの層からチームの補強ポイントとして考えたら、欲しいのは甲斐野だったはず。それでも和田を最初に獲得しようとしたところにも、何らかの理由で折れて甲斐野に変更したところにも、目先の結果に拘り過ぎない西武の「情」を感じる。
対して、時間をかけて山川と交渉した入団の果てに、和田をプロテクトから外したというソフトバンクの「勝ちに徹した姿勢」。
昨年、あるチャリティーイベントで和田と一緒になった時、オフから取り組む新しいトレーニングを支援者とともに体験していた。和田曰くそれは「脳の働き」について考えているとのことで「これまで身体のトレーニングは色々やってきましたから、あと鍛えられるのは脳くらいかなと思っているんです」と目を輝かせるように新シーズンへ向けてのビジョンを話していた。そんな思いを聞いただけに、胸が痛む。
ソフトバンクと西武は今、いずれもチームとして過渡期を迎えつつある。今回の騒動は、選手の移籍にとどまらず、極めて大きな意味を持つだろう。勝ちに徹した補強か、それとも情か――この先笑うのはどちらか。