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《高校ラグビー決勝》36年ぶり“超ロースコア”決着はなぜ起きた?…「前年は県大会敗退」桐蔭学園が日本一のワケ「パスを投げ、捕るところから…」 

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大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

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posted2024/01/11 17:09

《高校ラグビー決勝》36年ぶり“超ロースコア”決着はなぜ起きた?…「前年は県大会敗退」桐蔭学園が日本一のワケ「パスを投げ、捕るところから…」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

8-5という超ロースコアゲームを制した桐蔭学園。両チーム1ケタ得点での決着は実に36年ぶりの珍事だった

 3点を先制すると、24分には再び相手ゴール前へ。ここでは相手ゴール前10mで東福岡DFにターンオーバーされるが、そこからのアタックで東福岡SO井上晴生が落球。これを拾った桐蔭学園WTB田中健想がそのまま右中間インゴールに飛び込んだ。桐蔭学園から見れば意図的なアタックであげたトライではなかったが、徹底した地上戦で圧力をかけ続けたことが相手のゴール前でのミスを呼んだ形だ。

 徹底的なアタック――言うは易しいが実行は困難なその策を桐蔭学園が遂行できた原点は、1年前の屈辱にある。

全国の切符を逃した昨年の屈辱

 2022年11月20日、ニッパツ三ツ沢で行われた神奈川県予選決勝で桐蔭学園は東海大相模に13-14の1点差で敗戦。花園大会への連続出場が「7」でストップした。2019、2020年度には全国大会2連覇を飾るなど全国のトップに君臨していた濃紺のジャージーが、全国の舞台を逃した。

 その日、桐蔭学園の部員たちは学校に戻るとすぐにミーティングを行い、負けた原因を徹底して話し合った。先発15人中9人を占めた2年生以下の選手たちは自分たちの覚悟が足りなかったことと向き合い、1年2カ月後の全国大会決勝まで勝ち続けることを誓った。12月には自分たちの出場しない花園を視察し、翌年の勝利への決意を確かめ合った。

 翌年に向けて高めたのは思いだけではなかった。新チームを早く始動できた分、時間はあった。その時間をチームは基礎スキルのレベルアップに使った。パスを投げ、捕る。ラグビーでは当たり前の、小学生でもやるような練習メニューだ。

「こんなことから? と言われるようなことからやりました」と藤原秀之監督は苦笑する。

 とりわけ徹底したのは捕球だ。片手でパスを捕る。それも左右にぶれたパスや地面に落ちそうな低いパスを捕る。その繰り返しで培った高い基礎スキルが、花園での徹底継続ラグビーを支えた。6度にわたった10フェイズを超える連続攻撃は、相手の反則で終わったのが2度、味方の反則あるいは相手のターンオーバーで終わったのが3度、味方のノックオンつまり捕球ミスで終わったのはわずか1度だけ。地面に落ちそうな低いパスも難なく捕球し、強い姿勢で相手タックルに向かって行った。

【次ページ】 かつてのようなスター選手は不在でも…

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