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父は法政大のエースでも…《箱根駅伝“花の2区”区間賞》黒田朝日はなぜ青学大に?「距離は踏まない、時計はつけない」個性派エースの育て方

posted2024/01/04 17:04

 
父は法政大のエースでも…《箱根駅伝“花の2区”区間賞》黒田朝日はなぜ青学大に?「距離は踏まない、時計はつけない」個性派エースの育て方<Number Web> photograph by Yuki Suenaga

9位で襷を受けた黒田(写真左)は、7人抜きの快走で駒澤大追撃への勢いをつけた。急成長の裏にはどんな指導があったのだろうか? 

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酒井俊作

酒井俊作Shunsaku Sakai

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Yuki Suenaga

 青山学院大学が20年かけて、原晋監督のもとで築き上げてきた強さの秘密は、言葉に窮するエースの姿に現れていた。

 箱根駅伝新記録で東京・大手町のゴールに飛び込んでから3時間以上が経ち、周囲はすっかり暗くなった。各校の襷を模した垂れ幕がズラリと並ぶ読売新聞社の3階に覇者たちがやって来た。

 復路を走ったメンバーを報道陣が囲む。往路“花の2区”で区間賞に輝いた2年生の黒田朝日は前日に取材を受けていたためか、ぽつんと1人で立っていた。

 そんな彼に聞きたいことがあった。レースの感想、走っている時の心構えを問い、そして、原晋監督の指導について尋ねてみた。

「監督からの指導で、自分に生かしていることはありますか?」

 すると、困ったような表情をしながら、「そうですね……。うーん」と言って、考え込んでしまった。

 2004年に就任し、初優勝した15年以降の10年間で7度の優勝を果たした名将である。メディア露出も多く、弁が立つのだから選手に対して名言のひとつやふたつはあるだろう。だが、こちらの浅はかな思い込みをあざ笑うように、そこからは「寡黙」な指揮官の姿しか、立ち現れてこなかった。

◆◆◆ 

2区区間賞は逆転の「お膳立て」?

 誰もがアッと驚く新春の箱根路になった。またも原監督の独壇場である。駒澤大1強の前評判を覆し、2年ぶり7度目の総合優勝。分岐点は3区だった。太田蒼生(3年)が駒澤大のエース佐藤圭汰(2年)を逆転し、強烈なカウンターパンチになった。

 だから大会後、5区区間新の城西大・山本唯翔(4年)の最優秀選手賞(MVP)が発表されると、勝者のランナーたちはその偉業を称えつつ、率直な思いも口にした。

「俺らの中では太田さんもMVPだよね」

 MVPの選考基準として区間新が示されており、達成感に浸る若者の他意のない雑談である。すると、2区を走った黒田も笑顔で言った。

「僕はそれをお膳立てした、ってことになるのかな」

 お膳立て、とはなんと控えめなのだろう。もっと自己主張すればいいのに――なんて思ってしまう。それほどの活躍だった。彼の快走がなければ、これほど完璧なシナリオを描けなかったのは間違いない。

【次ページ】 選手の自主性を重視する“原イズム”の一端

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