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「99%負けのはず」藤井聡太21歳八冠ピンチで大逆転「大胆で…震えました」タイトル経験者・高見泰地と振り返る〈藤井将棋の一手2023〉
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/12/30 06:02
八冠を達成した藤井聡太竜王名人。2023年の“神の一手”や、将棋界全体の出来事を高見泰地七段と振り返る
「藤井さんが王座戦後の会見で〈将棋は取った駒を持ち駒として使えるのが大きな特徴で、それによって中盤、終盤と局面が進んでいくにつれて複雑になっていくところが面白いのでは〉とコメントされていましたよね。中・終盤でひねり出す一手は、現時点でAI研究だけでは分からない、偶発的に出てくる金脈を見つけるようなもの。その探求に将棋の醍醐味を感じているのかもしれません。あと、藤井将棋を見ていて強く感じるのは……リスクを厭わないというか、ハッとした所に大胆な一手が多いんです」
――例えば?
「夏にもお話ししたんですが、佐々木大地七段との棋聖戦第3局の73手目です」
――藤井八冠が36分の考慮の末に〈8六玉〉とした手ですが、夏に高見さんにお話を伺った際に「コンピューターが1時間以上かけて自動で思考終了するまで、ほぼ最善手だった」と話されていたのが印象に残っています。「あの局面で、この手をこれだけの時間で指せる棋士が他にどれだけいるのだろうか」ともおっしゃっていましたが、棋士視点では、どんな点に凄みを感じたのでしょうか。
「優勢からどう勝ち切るかというところで、力を見せつけられた感覚になったんです」
◇ ◇ ◇
コンピューター解析して“ほぼ最善手”の凄みとは
高見が自身のコンピューターで解析した際、藤井が36分で指した一手が“ほぼ最善手”だったことに驚きを隠すことはなかった。そのインパクトは2023年が暮れようとする今も、高い解像度で残っている。棋士視点で感じた凄みを掘り下げて聞くと「胆力」というキーワードが出てきた。
<第2回につづく>