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「99%負けのはず」藤井聡太21歳八冠ピンチで大逆転「大胆で…震えました」タイトル経験者・高見泰地と振り返る〈藤井将棋の一手2023〉 

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茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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photograph byKeiji Ishikawa

posted2023/12/30 06:02

「99%負けのはず」藤井聡太21歳八冠ピンチで大逆転「大胆で…震えました」タイトル経験者・高見泰地と振り返る〈藤井将棋の一手2023〉<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

八冠を達成した藤井聡太竜王名人。2023年の“神の一手”や、将棋界全体の出来事を高見泰地七段と振り返る

「はい。村田さんの素晴らしい戦いぶりだったことは、強調してお伝えしたいです。正直に言えば藤井さんは99%ぐらい負けだったと思うんですけど、そこから〈1%〉を引き当てるのが……実力といえば実力なのですが、神がかったものもあるなとも思います」

――それだけしびれる逆転劇ののち、準決勝の羽生善治九段戦、挑戦者決定戦の豊島将之九段戦も勝ち上がりました。

「豊島九段との挑戦者決定戦もすごい将棋でした。途中は先手の藤井さんが抜け出すかとみられたけど豊島さんも追いすがり、最終盤は混沌として……最善手ではないような手の応酬となった。1分将棋ならではの展開でしたが、その中で本当に驚いたのが藤井さんの〈3三歩〉という手です」

豊島戦の最終盤で「すごいなと震えた」理由

――135手目ですね。

「評価値的に言えば最善手は逃して、ほぼ差のない形勢になりました。ただ、だからと言って悪い手と断定はできない。では、なぜ驚いたかを端的に言うと、怖くて指さない手だから。〈もう一手指さないと価値がない手〉を、自玉が危険に見えて、なおかつ1分将棋の中で藤井さんは選んだんです。

 あの局面で〈3三歩〉と指すと、直後に自玉が攻め込まれることが確定する。だから普通なら遠くから角を打つなどの攻防手を考えます。でもそれをしなかったということは……藤井さんは短時間で、自玉に対する攻撃がギリギリ見切れると判断しているんです」

――攻撃を見切れるとした判断の根拠は、どう推測されるのでしょうか。

「玉自体はかなり追い込まれた形に見える一方で、間隙を縫って反撃できるからです。具体的に言うと、歩を打ったことで3筋にある桂馬を取れる。さらに活用できていなかった龍を引けるのですが、その〈次の狙い〉までのイメージが脳内にあるかが重要です。龍を引くまで2手かかる。それでも……どうぞ、とばかりに手を渡したのは決断力の高さを感じました」

――1分以内に数多ある手を読んだ上に、そんな果敢な決断ができるものなのでしょうか。

「持ち時間があれば〈これで見切れるかな〉と考慮できますが、そんな状況ではないです(苦笑)。だから先ほど挙げた角のように〈自陣に利かせて、敵陣にも攻めに使う〉手を考えるのですが、それは誰でも思いつくものです。実際は最善手の方が良かったかもしれないし、後からコンピューターを見れば誰でも分かることではありますが、その上でこの手を実戦で選べるのが、すごいなと震えました」

藤井さんはハッとしたところで大胆な一手が多いんです

――藤井八冠はよく「面白い将棋を指したい」と表現しますが、通常ならそういかないだろうという発想を選べることが、非凡さの証とも言えるのでしょうか。

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