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「99%負けのはず」藤井聡太21歳八冠ピンチで大逆転「大胆で…震えました」タイトル経験者・高見泰地と振り返る〈藤井将棋の一手2023〉
posted2023/12/30 06:02
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph by
Keiji Ishikawa
WBC優勝にバスケットボール、バレーボールW杯など日本代表の奮闘、三笘薫や北口榛花らといった世界の強豪相手に戦うアスリートの活躍が顕著だった2023年、将棋界も歴史に大きく刻まれる1年となった。
その中心軸は藤井聡太竜王・名人であることに異論はないはず。
棋王戦での六冠のち最年少名人と七冠獲得、さらには2022年時点で手にした5つのタイトルを防衛しつつ、8月末から10月にかけて行われた王座戦で永瀬拓矢九段との激闘を制して――八冠達成を果たした。
未来を読む天才たちが集う盤上の世界において、なぜ藤井将棋はさらにその先を進んでいるのか……ABEMA中継などでの解説が好評な人気棋士・高見泰地七段と、2023年の〈神の一手〉と将棋界全体を振り返っていこう。
◇ ◇ ◇
逆転の〈6四銀〉が素晴らしかった理由とは
――藤井八冠は2023年も、様々な妙手でファンを楽しませ、驚かせてきました。
「渡辺明九段との名人戦・棋王戦でも進化を感じましたし、八冠を達成した永瀬拓矢九段との王座戦では、壮絶な逆転劇を目の当たりにしましたよね。その中で今回は王座戦挑戦者決定トーナメントから2局挙げられればと。
まずはベスト8での村田顕弘六段戦です。あの一局はじっくり見ていましたが、この一局は村田システムが炸裂して、さらに藤井八冠の持ち時間も短かった。形勢がひっくり返ることはないのではと思っていたのですが、1分将棋の中で藤井さんが〈6四銀〉と上がったのが、素晴らしい手だったなと思います」
――その「素晴らしい手」とは、どういった点に感じましたか?
「端的に表現すると〈逆転するためにはこの手しかない〉という勝負に出た点です。おそらくAIでは最善手にならない……正解手を指されたら負けの手ですが、村田さんの立場で考えると、瞬時に急所が見えなくなる手なんです。具体的に言えば自陣と敵玉、両方を見なくてはいけない局面に村田さんがなった。そこから最後に逆転が起きました。
藤井さんが提示した局面においての正解手。それは〈金を最初に手放す〉というものです。だけど、人間的な感覚だと〈金はとどめに残せ〉というセオリーがある。それに反する手を指さなくてはいけない局面を、村田さんとしては突きつけられた感覚だったのではないでしょうか。〈6四銀〉という手がなかったら、今年度の藤井さんの八冠達成はなかったはずです」
実力なのですが、神がかったものもあるなと
――ただその逆転劇に至るまで、村田システムが藤井八冠を苦しめた側面は見逃せない、とも。