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「尚弥、頼むからジムに来ないでくれ…」井上尚弥に感じた“本当の恐ろしさ”…スパーリングで戦った八重樫東が証言「次の動きが読まれていく」
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph byYuki Suenaga
posted2023/12/24 11:06
現在は井上尚弥のフィジカルトレーナーを務める八重樫東
「それって、相手のイメージがめちゃくちゃリアルじゃないと試合ではできないんです。例えば、この前対戦した(スティーブン・)フルトンがこう来るから、こうやって詰めていって、こうやって打ち返す、と毎試合毎試合、相手と自分のイメージを作っているんです。それを試合で寸分の狂いもなくやってしまう。小さい頃からやっているんでしょうけど、そのイメージする力が本当に凄いんです」
対戦相手を過大評価する“強さ”
井上は対戦相手のビデオをじっくり見るタイプではない。ある程度見て、相手の動きを覚える。そこから、井上の頭の中で相手を徐々に強くしていくのだ。
「尚弥は対戦相手を過大評価しますよね。それって、自分のイメージの中でめちゃくちゃ強くしているんですよ。こうやったら、こう来るんじゃないかと。実際、相手はそんなパンチを打てないかもしれない。でも尚弥は、ああやってこうやって、これを避けられたら今度はこうして、と頭の中で強い相手と闘っている。だからこそ、試合で本物の対戦相手と向き合ったとき、『ああ、こんなもんか』って思えるんです」
八重樫はスパーリングでも井上のイメージ力を痛感した。次の動きを予測されるのだ。
「どんどん読まれていくんですよ。やればやるほど。常に5ラウンドはやるので、しんどかったですね。だから、どうやって尚弥の裏をかくか、というのを考えていましたね」
そう言って懐かしんだ。
八重樫は井岡戦、ロマゴン戦の際には練習段階から集中力が増し、コンディションもすこぶる良かった。井上のフルトン戦前もそうだったという。練習のときから集中力が違う。相手が強ければ強いほど、心身ともに研ぎ澄まされていく。
「変な話、こんなに対戦相手によって違うんだな、と思うくらい。(ポール・)バトラーの試合前とはスパーリングの出来もまったく違った。尚弥もそういうタイプ。でも彼の場合は、強い相手と闘ってしっかり勝ちますからね」
25戦全勝22KO。30歳。大舞台になればなるほど、力を発揮していくだろう。
「尚弥は元々めちゃくちゃ引き出しを持っているんですけど、まだ増やしていくことはできる。まあ、自分でどんどん勝手に新しいものを作り出していくと思いますよ」
鍛錬を積む井上の隣には八重樫がいる。これからもずっと「強い井上尚弥」であり続けるために。