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「あごが外れて…ぶらんぶらんと」161cmの伝説的ボクサーが“ボコボコにされた”世界戦「普通の人なら失神している」八重樫東の衝撃
posted2023/12/24 11:03
text by
森合正範Masanori Moriai
photograph by
Yuki Suenaga
◆◆◆
観客の前に姿を現した瞬間、大歓声が降り注いできた。2014年9月5日、東京・代々木第二体育館。ロマゴンこと、ローマン・ゴンサレスとの対戦。試合が始まる前だというのに、八重樫東は会場の熱気を感じていた。
「あまり聞いたことがないくらい、歓声がゴーッとなっていて、なんかすごいな、盛り上がっているなと思いました。あの入場は今でも覚えています」
勇者を称え、後押しするような拍手。八重樫は常に最強から逃げず、果敢に立ち向かい、観る者の心を震わせてきた。
「みんな、僕の思い出の試合って、ロマゴン戦か、井岡(一翔)戦。どっちも負けているんですけど、負けを恐れず向かっていく姿というのは、人生の中でみんなが共感できる部分なのかもしれませんね」
ボクシング人生を振り返り、そう言って笑った。
「あごが外れた」最初の世界タイトル戦
「呪われているのでは」と思うほど、キャリア序盤はけがに苦しんだ。
2005年3月26日、22歳でプロデビュー。1回KOで飾った。5戦目で日本最速となる東洋太平洋ミニマム級王座を獲得し、初防衛に成功した後だった。
「世界戦いけるか?」
所属ジムの会長、大橋秀行から声をかけられた。
「僕は基本的に『ノー』とは言わないんで『わかりました』という感じでしたね」
2007年6月4日、パシフィコ横浜。辰吉丈一郎、名城信男の持つプロ8戦目を上回る7戦目での国内最速(当時)を狙い、世界に挑んだ。相手はWBCミニマム級王者のイーグル京和。安定感があり、右の強打が武器のタイ人王者だった。
2回。偶然のバッティングで相手の頭があごに直撃した。
「あごが外れたかな。終わったら治せばいいや」
そう思ったが、次第にあごがぶらんぶらんと揺れてくる。パンチを食らえば激痛が走る。