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稲葉篤紀に聞く、プロ野球選手の影響力を生かした北海道日本ハムファイターズのスポーツ振興と地域課題解決策
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/12/13 07:00
現役時代から地域貢献活動に熱心に関わり、2015年からは球団の活動の旗振り役を務めてきた稲葉篤紀氏
「移転当初はなかなかファンが集まらなかったという話も聞きましたが、僕がチームに入った2005年には、道内の人気も高まり北海道日本ハムファイターズという名前が少しずつ全国区になっていくという熱気がありました。翌年の日本一は、北海道の方達の心を一気に掴めたんじゃないかなと感じた大きな出来事でしたね」
稲葉氏は現役時代から、地域貢献活動に携わってきた。北海道内のさまざまな地域で医療支援を行ったり、チャリティーオークションに用具を提供したりと積極的に活動。2009年オフには自身の発案で、子供達を中心に道民への貢献活動を行う「Aiプロジェクト」を立ち上げて、約1300の小学校にリレー用のバトンを贈ると共に児童施設訪問などで道内各地を訪れた。
「当時のファイターズは“つなぎの野球”と言われていたので、バトンには“思いをみんなで繋いでいく”という願いも込めました。毎年活動を続けていくうちに、卒業して大きくなった子から『小学校の時に稲葉さんのバトンを使いました』と言ってもらえることもあって、それは本当に嬉しかったですね」
ファイターズは2015年から地域貢献活動を「SC活動」として体系化。稲葉氏は引退翌年からその旗振り役である「SCO」に就任して活動を続けてきた。「SC活動」は現在、大きく分類して「野球振興」、「野球以外のスポーツも含めた心身の健康増進」、「北海道の地域課題の解決」という3つのテーマを掲げている。特徴的なのは、野球振興のみならず幅広い視点を持ち活動している点だ。
2016年から行っている「FOOTSTEP FUND~あしあと基金~」は、ウォーキングを楽しみながら参加者の10歩を1円に換算して積み立ててパラスポーツ支援を行うチャリティーだ。また、選手会が原案づくりに携わって絵本を制作したり、目標冊数を読み終えた児童を試合に招待する「グラブを本に持ちかえて」や、ウインタースポーツの助成事業である「ゆきのね奨楽金」といった活動もある。オークションや募金、チケットやグッズの売り上げの一部などを積み立てた「ファイターズ基金」は、災害支援を目的とした募金なども含めてこれまで1.9億円以上の額を地域に循環させてきた。
なぜ北海道の子供は運動能力が低いのか
ファイターズ広報部SCグループの笹村寛之グループ長は「冬の間体を動かせないということもあり、道内の子供達は全国平均より体力が低いという課題があります。それ以外でも北海道は課題先進地域と言われるように、人口減少や過疎化の問題、ひとり親世帯の割合が全国平均より高いことや、森や海に囲まれている土地柄、環境問題や、ヒグマやエゾジカによる農業被害など様々な課題がある。スポーツ以外のところでも我々ができることを探し、地域の方々と協力していくことが大事だと考えています」と話す。
実際に、自身の発案から子供の体力向上を目的とした「K.I.D.S.プログラム」を立ち上げた稲葉氏も、イベントで各地域を訪れたり冬の運動会に参加したりする中で、地域課題に取り組む意義を実感してきたという。