プロ野球亭日乗BACK NUMBER
阪神日本一のカギは捕手力? 坂本誠志郎を固定した岡田彰布監督の意図…ノムさんも語っていた「日本シリーズは捕手のためにある」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/11/06 20:45
日本シリーズ第7戦、阪神優勝の瞬間。最後の打者を打ち取った岩崎優投手に駆け寄る捕手の坂本誠志郎
一方のオリックス・中嶋聡監督はシーズン中も143試合で135通りのオーダーを組んだように、日本シリーズ7試合でついに1試合も同じオーダーを組むことはなかった。
そして捕手も第1戦ではシーズン中から先発・山本由伸投手とセットの若月に始まり、第2戦では同じく宮城大弥投手とシーズン中からコンビを組む森を起用。3戦目以降は若月、森、若月、若月、森という順番でマスクを被らせている。
固定と併用。
決して併用を否定はしないが、1つだけ言えるのは、シリーズを通して阪神・坂本が果たした役割が非常に大きかった。坂本を固定できたことが、阪神日本一のカギとなっていたということだ。
「シリーズの間も、ずっと一緒にバッテリーミーティングには出ていました。ただやっぱりデータはデータでしかないですから。実際の戦いの中で相手バッターの雰囲気をどう感じとって、どうそれをリードに反映していくか。そういう意味では(坂本は)すごく成長したし、いい経験を積んだと思います」
こうシリーズでの坂本を評したのは、チームメイトの梅野隆太郎捕手だった。
シーズン前には梅野を正捕手とする方針も…
実は岡田監督はシーズン前には、この梅野を正捕手として固定する方針を打ち出していた。坂本の出番は村上頌樹投手、大竹耕太郎投手の先発のときと最初は限定的だった。しかし8月に梅野が死球で左尺骨を骨折して戦線離脱したことで、その後は坂本が主戦捕手としてマスクを被り続けて“アレ”を達成。日本シリーズでも全試合、全イニングで、岡田監督はこの坂本に投手を引っ張る役割を託したのである。
その中で梅野が坂本に感じたのはデータに縛られるのでなく、打者の匂いを嗅げるようになっている、捕手としての坂本の嗅覚だ。
「投手とのコミュニケーション能力が高いし、その日の投手の状態をすぐに見抜く力がある。相手の打者が何を狙っているかを嗅ぎ分けて、そんな投手のいいボールを上手く引き出しながらリードできていた」
嶋田宗彦バッテリーコーチの坂本評だった。
投手とのコミュ力も高く、ベンチでひっきりなしにメモを取るなど勉強熱心。その情報を活かしながら、ノムさんが日本シリーズを「準備、実戦、反省」と表した3つのステップの中で、特に「実戦」での対応力が光ったわけである。
捕手のフットワークとキャッチング
そしてもう1つ、坂本固定でオリックスとの差が出たのが捕手の守備力の差だった。