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「フランス語知らねえのかよ」英語で話しかけると“不機嫌だった”フランス人なのに…日本人に伝えたい「この16年間で海外旅行の常識は激変した」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2023/10/20 11:03
パリ街角のレストラン。筆者はラグビーW杯を現地取材するため、16年ぶりにフランスに滞在した
私は16年前を懐かしく思い出す。ボルドーのカフェに入ったら英語のメニューはなく、フランス語メニューを見つめたところで、何が書いてあるのかさっぱり分からない。知っている単語である「jambon」(ハム)と「baguette」(バゲット)だけが目に飛び込んできて、結局「ハムサンド、お願いつかまつります」とか、やけに丁寧に注文していたものだ。
つまり、「知っているものしか頼めない病」にかかっていた。
ところがである。Googleレンズのおかげで、どんな料理が用意されているのか本当に分かる。しかも、印刷物だけではなく、黒板にチョークで書いてある味わい深い書体さえも解読してしまうのだ!
Google珍訳「おばあちゃん委員会」
しかし、時々「珍訳」が出てくる。
文藝春秋写真部員Mくんと私は、「ニースの変」と呼ばれる民泊のオーナーによるドタキャン事件の時、なんとかニースにたどり着いて夕食を食べようと駅前のカフェに入った。そこで、ふたりで笑い転げた。メニューの珍訳が疲れ切った我々の笑いのツボに入ってしまったのだ。たとえば、「伝統的なボード」(プレート料理のことだ)には、次のようなメニューが並んでいた。
おばあちゃん委員会。
農民の板。
祖父のボード。
まさに興味津々で、想像力がかきたてられた。
おばあちゃん委員会とはなにか? 村のおばあちゃんたちが寄合に出席し、メニューに何を出すべきか、討論し、議決するのだろうか?
農民の板とはなにか? フランス特有の農機具だろうか。
そして祖父のボード! これはおじいちゃんが孫に託したサーフィン・ボードではないか? なんたってここは海のあるニースだし!
メンタル的に限界に追い込まれていた私たちは、テキトーな想像力を発揮して、笑い転げていた。取材旅行初期、われわれは笑うことでなんとか精神の均衡を保っていた。
珍訳は続く…「ウシ歯石」「公園のクモ」
それからお店のメニューで珍訳が登場すれば、Mくんと私はそれを記録に留めることにした。
Mくんがこよなく愛するトゥールーズの肉料理店、“Meet the Meat”の黒板メニューは珍訳のオンパレードだった(予め書いておくが、ここは名店である)。
まず、先頭に書いてあるのが「私たちの間」。