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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「あのとき日本のメディアは悲観的すぎた…」ラグビーW杯、日本代表が負けた後の準々決勝が“神回”だった「まるでお通夜…フランスが泣いた夜」
posted2023/10/19 11:02
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph by
Kiichi Matsumoto
準々決勝③【イングランド30―24フィジー】
10月中旬だというのに、南仏マルセイユはあったかい。まだ、半袖短パンで行ける。が、マルセイユの街中では緊張感を強いられた。
なにもせずに、ふらふらと立っている人、ほっつき歩いている人が多い。そしてグラフィティー、落書き天国。とにかく人がわんさかいて、お店の前は活気があって、みんな大声で話している。私はこう思った。
「上野? それとも御徒町の進化系?」
さて、三笘薫以来のスタジアム(スタッド・ド・マルセイユ)である。あの時の緊張感はない。上品である。フランスではイングランドはとてもとても嫌われているので、フランス人はフィジー応援モードだ。
「20年前を思い出す」決勝ドロップゴール
準々決勝第3試合(こう書くと夏の甲子園っぽいね)、後半30分にフィジーが追いついた時には「これは、南半球四強独占か!」と思ったほどだった。イングランド相手に10対24からの劣勢を跳ね返すのは、並大抵の力ではない。
両軍、前半こそエラーが目立ったが、試合が進むにつれて実力が浮き彫りになる。イングランドは分析力とその落とし込み。フィジーのオフロードパスに対して、つながせないための方策を練ってきているのが分かる。
一方のフィジーだが、後半28分のトライはそのオフロードを駆使したトライだった。フェイズが進み、11番ラドラドラ(名前がいい)がスタンドオフの位置に立ち、タックルを受けると「ヒョイ」という感じでロック4番ナシラシラに短めのオフロードを出して、ラインブレイク。このとき、解説者は「デリシャス・ショート・オフロード!」とコメントした。本当にデリシャスで、このあと、ナシラシラがバックスと見まがうほどのラストパスを出した。大会屈指のトライである。
しかし、イングランドは勝ち方を知っている。後半32分、勝ち越しのドロップゴールを決めたのは大会前に出場停止処分を受けていたオーウェン・ファレルである。
イングランド司令塔のドロップゴールといえば、2003年大会決勝のジョニー・ウィルキンソンの決勝ドロップゴールである。