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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「あのとき日本のメディアは悲観的すぎた…」ラグビーW杯、日本代表が負けた後の準々決勝が“神回”だった「まるでお通夜…フランスが泣いた夜」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/10/19 11:02
準々決勝、南アフリカに1点差で敗れたフランス。終了直後、呆然とするフランスの主将・デュポン
才能、育成、コーチング、すべてがそろっていたはずだ。ああ、それなのに私たちの誇るべきチームは、これだけの力をもってしてもW杯では勝てないのか――。前夜、アイルランドの人たちが味わった苦さを、この夜はフランス人が味わっていた。
「レキップ」だけではなかった。フランスではスポーツの討論番組が多いのだが、日曜の夜はお通夜のようだった(フランスにお通夜があるかどうかは別として)。
フランスの「たられば」
しかも、1点差の敗北だけに「たられば」が付きまとう。トマ・ラモスのコンバージョンがチェスリン・コルビにチャージされていなかったら(これは永遠に語り継がれるプレーだ)。
さらには正SOだったロマン・ンタマック(こちらで発音を聞いていると、ヌタマックではなく、ンタマックと聞こえます。しりとりじゃないから、ンタマックでいいと思います)が負傷せずに大会に参加していたら、結果は変わっただろうか?
数限りない「if」が、フランス人につきまとう。たしかに、悲劇だ。
立ちはだかった南アフリカは分厚かった。鉄板か、それとも鋼鉄と呼ぶべきか。それにしても、前日のニュージーランドに続き、南アフリカはラグビーが「国技」である国の強さを見せつけた。
規律を保ったディフェンス、しかもそれが選手同士で共鳴している。
アタックで目を見張ったのは、キックの正確性だった。ハイパントは必ず味方が競れるところに落とす。キックでボールを転がす時も、走り込む選手が捕りやすいように意識して蹴る。それがトライにつながる。
イングランド戦で日本が目指していたのは、こういうラグビーだったのか――と気づく。求めていたものが、そこに提示されていた。
南半球の巨頭が、北半球のエスプリを跳ね返し、砕いた。
「この車両は使えません!」「本当に困りましたね…」
さて、私の旅も終盤を迎えたが、マルセイユからの帰路の列車について触れておかなければならない。