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スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「あのとき日本のメディアは悲観的すぎた…」ラグビーW杯、日本代表が負けた後の準々決勝が“神回”だった「まるでお通夜…フランスが泣いた夜」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/10/19 11:02
準々決勝、南アフリカに1点差で敗れたフランス。終了直後、呆然とするフランスの主将・デュポン
涼しい顔をして決めたファレルを見ていると、「その国に伝わるラグビーの遺伝子」の存在を感じざるを得なかった。最後の6点は、イングランドとフィジーの経験値の差ではなかったか。
「日本メディアは悲観的過ぎたかもしれない」
フィジーの堂々たる戦いぶりを見て感じたことがある。
8月5日、日本は秩父宮でフィジーに敗れた。その前々週にはサモアにも敗れていたから、「日本悲観論」が湧いてきた。
しかし、いまはこう思う。われわれメディアは悲観的過ぎたかもしれないと。
フィジーはベスト4に手が掛かろうとしていた。
サモアはプールステージ最終戦で、イングランド相手に17対18と1点差の惜敗。
どちらも強かったのだ。しかし、どうしても4年前の「幻影」に引っ張られていた。サモア、フィジーには勝って本大会に臨む。そうしたストーリーをメディアは欲した。しかし、それは間違いだった。悲観する必要はなく、そこからどうやってビルドアップしていくのかを観察すれば良かっただけの話なのだ。
メディアも経験値を積まなければならない。自戒を込めて、4年後への課題としよう。
「フランスが絶望で泣いた夜」
準々決勝④【南アフリカ29―28フランス】
前夜のニュージーランド対アイルランド戦に続き、傑作が誕生した。ただし、それは切ないものだった。
開催国フランスの敗退は、大きなショックをもたらしている。
スポーツ専門紙「レキップ」(芸能面は一行もありません。すべて、スポーツです)は、翌朝の1面トップでキャプテンのアントワーヌ・デュポンの写真を大きく使い、”A PLEURER”、直訳すると「泣く」と見出しを打った。この場合は、「涙」とする方が翻訳としてはいいだろうか。
続いて2面、3面はルノー・ボレル記者の観戦本記。「今朝のコーヒーは……」と詩情たっぷりの出だしから哀しみを綴る。見出しのリードがすべてを物語っている。
「この涙は永遠のものとなるだろう――昨夜、フランスのラグビー史の中でも最も優れたチームのひとつが、才能では劣りながら、勝つためのリアリズムを徹底的に追求した南アフリカに敗れた。この敗退は失望と言ってよい。それも、計り知れないほどの」
まるで“お通夜”のようなテレビ
フランス代表は才能にあふれ、魅力あふれるラグビーをファビアン・ガルティエHCの下で見せてきた。だがしかし、決して魅力的ではない南アフリカに敗れてしまった。美学が許さない形での敗戦。
U20世界選手権では2018年、2019年、2023年と勝ち続けているフランス。そのメンバーたちが順調に代表入りし、しかもW杯は地元開催。すべてのストーリーは、パリで最高のフィナーレを迎えるはずだった。